愛憎渦巻く世界にて
「ぐえ!!!」
「まずいぞ!!!」
2本の丸太は、凹んだ鉄板と化している元扉の上に倒れ込んだ。再び鳴る金属音。
横たわっている運の悪い数人の敵兵が、丸太の下敷きとなった。丸太のトゲに、頭を貫かれた者もいる……。流れる血が、扉の凹みに血だまりをつくった……。
「おい!!! 早く進め!!!」
「これをどかさないと無理だ!!!」
突入できなかった敵兵たちが、丸太の向こう側で叫びあっている。
「そっちから押してくれ!!!」
すでに突入している兵士たちもそうだった。取り残されてしまったわけなので、必死な様子を見せている。
「押せ押せ!!!」
先ほどの破壊槌が、倒れている2本の丸太に衝突する。力任せにどかすつもりらしい。
ところが、足元の元扉に、変な具合で乗り上げてしまう。おまけに、2本の丸太が、破壊槌の丸太を挟み込む。破壊槌は、行動不能に陥った。
「クソ!!! クソ!!!」
悪態をつくしかない敵兵たち……。
破壊槌は、門の新たな「扉」と化した……。
これで、敵軍団の分断は、見事成功したわけだ。半々とまではいかないものの、かなりの数を、首都の中に閉じ込めることができた。次にするべきことは、この哀れな敵兵たちをなんとかすることだ。
「攻撃しろ!!!」
ゲルマニアの合図と同時に、ムチュー兵たちは攻撃を始めた。
あちこちから放たれる矢や、メアリーの銃弾が、敵兵たちの息の根を止めていく……。閉じ込めの混乱もあり、敵兵たちはうまく反撃できない。
ムチュー側からの一方的な攻撃が繰り広げられる。初めてクロスボウを使うシャルルが、次々に戦果を上げられるぐらいだ。
「じ、陣形を組め!!!」
指揮官は焦りつつ、命令を発する。
少し時間がかかったものの、敵兵たちは円形の陣形を組んだ。外側に突き出されたいくつもの盾が、内側の兵士たちを守る。盾に弾かれる矢。メアリーの銃弾も跳ね返されてしまった。
「シャルル、後ろから両肩を押さえてくれる?」
「わかった」
クロスボウを床に置き、メアリーの体を後ろから抑えるシャルル。
彼女は、短筒に使う火薬の量を増やして、強力な銃弾を放つつもりでいた。反動が強いため、彼に支えてもらうのだ。
発射の準備を終えた彼女は、敵兵たちの陣形に狙いを定める。ここから見ると、まるで大きな亀の甲羅だった。
「ここが良さそうね」
彼女は、その「甲羅」の弱点を探し出していた……。