愛憎渦巻く世界にて
「ん?」
ゲルマニアの視線は、材木置き場で止まった。マッチョな男たちが、そこから丸太をどこかへ運び出していく。
「あの丸太を使って、柵を築きます。時間稼ぎにしかならないでしょうが……」
将校は説明した。
「……いや、使い方によっては、十分に使えるぞ」
ゲルマニアは何かを思いついたらしく、ニヤリと笑った……。
「ゲルマニアは何を始めるつもりなんだろう? 首都の防衛を任されたらしいけどさ」
半壊状態の建物の窓辺にいるシャルルが、門のほうを見ながら言った。近くには、ウィリアムとメアリーもいる。2人とも、武器の手入れをしていた。
シャルルたちがいる建物は、ゲルマニアが訪れた門のすぐ近くに建っていた。4階建てのアパートだったが、攻撃で半壊してしまったため、住人は1人もいない。シャルルたちは、3階の一室にいる。
彼らはそこから、突入してきたゴーリ軍を迎撃するつもりでいた。念のため、逃げ道を反対側に用意している。
「本人に聞いてみたらどう?」
短筒の整備をしているメアリーが言う。
「そうするよ」
「待て! 邪魔になるだろう。私にはわかるから教えてやる」
忙しそうなゲルマニアに、わざわざ聞きだそうとしたシャルルを、ウィリアムが制止した。彼女は今、大工らしき男たちに指示を出している最中だ。
ウィリアムは、弓の手入れを一休みし、シャルルのそばに立つ。
「ゲルマニアは、あの丸太を何本か使って、突入してきた敵軍を分断するつもりだろう」
「でも、丸太なんて、すぐに突破されちゃうんじゃ?」
「だから、トゲを突き出させたりしているのさ。あの大工が、太い釘を持っているのが見えるだろう」
「ほんとだ。……でも、うまく分断できたとしても、かなりの敵が進入してしまうぞ」
「その点の心配は無用だ。あそこを見てみろ。簡単な柵を作っているだろう?」
門のそばで、高さ2メートルほどの低い柵を作っている者たちがいた。完成したら設置するのだ。
「あんなしょぼい柵じゃあ、とても長くは耐えられないよ」
「確かに時間稼ぎにしかならない柵だが、設置場所を工夫すれば、その分長く持つ」
「……門から見て両側に設置しているみたいだ。ただそれだけじゃないか」
できあがった柵は、門から正面に向かって平行する形で、両側に設置されていく。まるで、道を柵で守っているような感じだ。
「突入の勢いで、敵軍は正面へ進むはずだ。柵を壊すために立ち止まろうものなら、後ろの奴にぶつかられる」
「…………」
確かにこれは、ウィリアムの説明通りなのであった……。