愛憎渦巻く世界にて
「あっ、ゲルマニアさん!!!」
門へ向かう途中の城下町にて、ゲルマニアはマリアンヌに声をかけられた。彼女のそばには、国王と護衛の兵士たちがいる。
彼女と国王は、攻撃が一旦止んだため、城下町の様子を見にきたのだった。もちろん、冷やかしにきたのではなく、被害を受けた人々を激励するためだ。すぐ近くには、臨時の救護所が設けられていた。
「マリアンヌ! おまえは、安全な場所にいるべきだ!」
突入前にまた攻撃されないとは限らない。しかし、マリアンヌは平然としている。
「また地下室に隠れるなんて嫌ですわ! それより、頑張ってくださいね!」
堂々とした態度だけは、ゲルマニアと同格だ。
「……ありがとう」
そんな彼女に、ゲルマニアは苦笑いを浮かべるしかなかった。
ゲルマニアは、この首都で1番大きな門にやってきた。鉄製の門で、大きな馬車2台がすれ違えるぐらいの幅がある。ただし、それほどの厚さはなく、石灰岩で築かれた頑丈な外壁と比べると、頼りなさを感じた。
守備の兵士が配置されているが、それほど多くはない。
「なぜ、ここの門だとわかるんですか? 門なら他の場所にもありますよ」
同行中の将校が、ゲルマニアに尋ねる。
「リスクを考えれば、突入口は広ければ広いほうがいい。そのほうが、待ち伏せされていた場合に、散らばりやすいからな」
ゲルマニアのスラスラとした回答に、将校は感心した様子で納得していた。
「しかし、ゲルマニア姫。もし、敵が裏を読んでいたらどうしますか?」
クルップが嫌なことを言ってきた。だが、ゲルマニアは動じない。
「その心配はない。時間の都合から考えると、向こうの司令官は、それほど有能な人物ではないはずだ」
「時間の都合?」
「私が知っている限り、有能な司令官は遠い戦線へ赴いているはずだ。本国の首都に残っていたのは、無能ではないが有能でもない者だけだろう」
「なるほど」
「それに、下手に急ぎ調子だから、手柄を少しでも早く立てようと、躍起になっていることがわかる」
「それなら納得できますね。……しかし、どうやって迎え撃ちますか?」
「それが1番の問題だ」
ゲルマニアは、門の周囲を見回す。