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愛憎渦巻く世界にて

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 首都周辺に展開しているゴーリ軍は、攻撃を一旦止めた。首都の人々を可哀想に思ったからではなく、兵士や兵器を休ませるためであった。
 兵士たちは、軽食を取ったり、兵器にメンテナンスを施したりしている。戦友と談笑する兵士たちの声や、投石器の縄を取り換える音などが、陣地のあちこちから聞こえる。一方的に攻撃できている余裕さから、陣地の雰囲気は明るかった。

「どうして、さっさと突入しないんだ!?」
ところが、彼らを指揮する兄君だけは、イライラしていた……。元々せっかちな彼は、とにかく速攻で決着をつけたいらしい。
「激しい抵抗が予想されますので、突入は危険です」
軍事に素人である兄君を、副官は説得する。机の上に広げられた地図には、両軍の駒が置いてあった。
「なぜ危険なんだ!?」
「逃げ道を用意せずに包囲を敷いているからです。敵は、死にもの狂いで抵抗してくるでしょう」
「ふん、『窮鼠猫を噛む』か。しかし、余計な時間をかけていたら、援軍がやってくるだろう。そうなれば、泥沼に陥る」
兄君は、めんどくさがり屋でもあるため、あまり戦いたくなかったのだ……。また、危険な目に遭いたくないという理由もあるだろう。
「とにかく突入させろ!!! これは、王室命令だぞ!!!」
きっぱりと言い切った兄君……。
「……わかりました」
これ以上言っても無理だと悟った副官は、突入命令を受け入れることにした……。



「ご報告致します! ゴーリ軍が、首都への突入に向けて、動き始めたとのことです!」
伝令は、王城内の作戦室で叫んだ。
 そこには、ゲルマニアとクルップが、何人かのムチュー将校とともにいた。彼女は着任したばかりにも関わらず、立派な軍人としての存在感があった。まるで、昔からこの国の軍人として生きてきたかのようだ。
 ちなみに、クルップは、ゲルマニアからの説明を聞き、渋々ながらも納得してくれた。彼は、ゴーリ時代同様に、彼女の副官を務めることになった。

「1番大きな門は、ここだな?」
テーブルの上に広がっている地図を見るゲルマニア。彼女は、王城からメインストリートを経てつながる門を指差していた。
「そうです。ただ、すでに兵士を配置しております」
迎撃態勢は整っていると、その将校は言った。
 しかし、ゲルマニアの表情は固い。
「真正面からでは、猛攻を抑えきれないだろう。兵力は桁違いだ」
彼女の言う通りであった。地の利から、守備側が有利とはいえ、数の勢いに勝てるとは思えないからだ。
「現地に赴こう。妙案が浮かぶかもしれん」
ゲルマニアは、クルップや将校を率いて、その門へ向かうことにした。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん