愛憎渦巻く世界にて
「国王陛下。このままでは、マリアンヌやあなたを守り切ることができません」
ゲルマニアは、驚きの目で自分を見ている国王に言った。
「なぜ、そなたに守ってもらわなくてはならないのか!?」
彼は彼女が、自我か何かを失ったのではないのかと思った。現在進行形で自国を攻撃している敵国の姫が、自分たちを守ると言い出したのだから、当然の反応であった……。
「陛下、私は真剣です」
「心配は無用だ。必ず、そなたの軍を撃退してみせよう」
自信満々に言う国王。
「失礼ですが、現実を見てください! このままではやられる一方です!」
外を指さすゲルマニア。
――首都は、現在進行形で大災害に襲われているようであった。外壁を飛び越えてくる岩が、建物に次々に直撃していく。もはや、無事な建物があるとは思えないほどだ。
建物と同じく、無事な人がいるとも思えないほどであった……。身体的被害ではなく、経済的被害だけで済んだ者もいるが、本人とっては大差が無かった。
さらに岩だけでなく、矢も飛んできた……。外壁を飛び越えてきたそれらには、火が灯っていたり、猛毒が塗ってあるものもあった。火の矢は火災を起こし、猛毒の矢は汚染を起こす。火災や猛毒によって、被害はじわじわと拡大していく……。
おまけに、とてつもない大混乱が起きており、兵士たちは、反撃の準備をするどころではなかった。混乱の収拾に右往左往している。
「では、どうしろというのだ!?」
本当は国王自身も、困り果てている状況であった。大臣が言っていたように、有能な司令官や大多数の兵士が出払っているからだ……。
「私に指揮を取らせてください! 相手の戦法を熟知している私なら、量より質で勝てるでしょう!」
ゲルマニアは、ムチュー軍の指揮をするつもりであった……。彼女は今さら言うまでもなく、敵国であるゴーリ王国の人間だ。元軍人とはいえ、騎士団のリーダーも務めていたほどである。
「傭兵でもないのに、そなたに任せられるはずが無いだろう! そなたは、ヤツらに救出される人間ではないか!?」
「包囲している連中は、私の安全など気にしていないでしょう! もし気にしているなら、使者の1人でも送ってくるはずです!」
「……確かにそれはそうだが、だからって、かつての同胞相手に、どういう大義を抱えて戦うつもりだ!?」
わざと「大義」という言葉を強調する国王……。
しかし、彼の嫌味にも、ゲルマニアは屈しない。
「大事な友を守るためです!!!」
ゲルマニアは、はっきりとそう言った。彼女の横にいるマリアンヌは、勇ましい彼女に惚れ惚れしている。