愛憎渦巻く世界にて
それを合図にしたかの如く、外壁の向こうから、岩がどんどん飛んできた。あまりの数の多さに、それが岩であると思えなくなるほどであった……。
次々に着弾する岩。城下町のあちこちで、建物が崩れていく。もちろん、死者も増えていく。
哀れな人々は、無我夢中で逃げ回るしかなかった。もう食糧の確保がどうという状況ですらない。
「皆の者、落ち着くのだ!!! 兵士たち、反撃の体制を整えろ!!!」
国王は、バルコニーから身を乗り出して叫んだ。ゲルマニアに負けないほどの気迫だ。何人かの人々が足を止めて、国王を見上げる。どうやら、彼の権威は、まだ健在のようだ。
それをあざ笑うかの如く、1番高く飛んできた岩が、城の上層部に命中してしまう……。小さな塔が傾いて崩れていく。
それと同時に、連鎖崩壊が起こり、国王がいるバルコニーの上部分も崩れ始めた……。
「うわ!」
落ちてくる石ころや砂が、国王の頭に降り注ぐ。目をやられないよう、顔を覆う国王。
しかし、そんな石ころよりも大きな岩が、国王目がけて落ちてくる……。命中した岩の残骸だ。それだけでも、人を押し潰せる大きさをしている。ところが、顔を覆っている国王は、それに気がついていなかった……。
「危ない!!!」
ゲルマニアが素早く動き、国王の両肩を後ろから引っ張り寄せた。状況がわからない様子で、バルコニーから後ずさる国王。
――落下してきた岩の残骸やガレキの重みで、バルコニーは崩壊していった……。バルコニーが無くなったことに、室内からでも城門が見えるようになる。国王が巻き込まれてしまったと思い、顔を覆っている者がいた。
「お父様! ゲルマニア! 大丈夫!?」
駆け寄ってきたマリアンヌ。国王の視線は、彼女ではなく、ゲルマニアのほうを向いている。
「なぜ助けた!? 私が今死ねば、混乱に乗じて逃げることもできただろうに!」
自分を助けてくれたゲルマニアに、信じられない思いで尋ねる国王。
「大事な友の御家族だからです!」
何の抵抗も無くそう言ったゲルマニアに、国王は口をパクパクとさせて驚いていた……。
「本当に君は、我が軍を何度も打ち破ったゲルマニアなのかね?」
もちろん冗談だが、聞かずにはいられなかったらしい。