愛憎渦巻く世界にて
「実は、こちらも同じ状況です!!!」
「北側の見張り台の者ですが、同様でございます!!!」
ところが、他の見張り台からの伝令も、口々にそう叫び出した……。
どうやら、シャルルたちが助けた者以外の伝令も、その場にいたようだ。ジャマな群衆のせいで、彼らも王城に近づけなかったらしい。
「完全に包囲されてしまっているではないか!!! 首都の防衛は、一体どうなっているんだ!!!」
国王は激怒し、先ほどの大臣に詰め寄る。その大臣は、魚のように口をパクパクとさせていた……。
「今すぐ撃退しろ!!! 首都の全兵力をもって、薙ぎ払ってしまえ!!!」
「し、しかし、全兵力をと申されましても、首都には現在、警備要員程度の兵士しかおりません。各地から呼び出すにしても、完全に包囲されている状況では、伝令を送ることも」
「とにかく撃退しろ!!! このままでは、籠城戦に乗じた反乱が起きてしまうぞ!!!」
国王が考えることは最もだった。命乞い目当てに、売国同然の反乱を企てる者が現れるのは、想像に難しくない。敵に殺される前に、味方に殺されるなど、恥ずかしいことだろう。
マリアンヌは、ゲルマニアに抱きつき、突然の恐怖に震えていた。ゲルマニアにとっては、自国の軍隊が来てくれたということになるが、一安心してはいなかった……。
激怒する国王たちに対し、集まっていた群衆は、焦りに焦って大パニックになっていた……。自分が籠城戦に巻き込まれるなど、これっぽっちも考えていなかったに違いない。群衆は、散り散りに走り去る。
さっそく、食品の買い溜めに走る者も出始める。この急激な勢いから考えれば、略奪もすぐに発生するだろう。大混乱の中、籠城戦を戦うことになりそうだ……。
「おい、なんか声がするぞ!!!」
気がついた者は、耳をすます。
それは、ゴーリ軍の兵士たちの声であった……。どうやら、攻撃開始を聞いて、気勢を上げているらしい……。
とうとう、始まってしまったのだ……。
「危ない!!! 何か飛んできたぞ!!!」
大型の投石器から放たれた岩が、外壁を飛び越えてきた。挨拶代わりの1発目なのだろう……。
その岩は、城下町の集合住宅に落ちた。3階建ての建物の上半分が、岩の直撃で崩れる。近くにいた人は、その瓦礫に押し潰された……。
城下町は、さらにパニックに陥った。逃げ惑う人々が、あちこちで将棋倒しを起こした。