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愛憎渦巻く世界にて

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 マリアンヌが大演説を繰り広げていた頃、首都を守る外壁の物見やぐらには、数人の兵士たちがいた。そのうちの1人が見張り台に立ち、壁の外側を睨んでいる。だが他の者たちは座り込んで、トランプ賭博に熱中している……。

「あっ、また負けた!」
敗者の兵士が、持っていたトランプを床に叩きつける。
「今日はおまえの厄日なんだろうな」
勝者の兵士が、賭け金を集めてい。
「……そうかもしれねえ。おい、交代するか?」
今回の勝負をあきらめた兵士は、見張り台にいる同僚の兵士に言った。
 ただ、見張り台の兵士は、それに返事をすることなく、壁の外側をじっと見つめたままだ……。城門での騒動やマリアンヌの声は、ここまで届いておらず、声が聞こえていないはずはない。
「どうした? 何か見えるのか?」
「……ちょ…ちょっとこっちに来てくれ」
ようやく見張りの兵士が声を発した。だが、その声は恐怖に震えている……。視線の先を指差しているが、その指もブルブル震えてしまっている。
 座っていた兵士たちが立ち上がり、見張り台のほうへ向かったが、

   ドドドドドドドドドド!!!

湧き上がるような地鳴りとともに、床が縦に揺れ始めた……。見張り台に向かっていた兵士たちは、その場で踏ん張る。
「なんだ? 地震か?」
地鳴りと揺れは、収まることはなく、逆にどんどん激しくなっていく……。見張り台の上に吊り下げられている鐘が揺れ、音をうるさく鳴らす。
「は…早くこっちに来てくれ!」
見張り台の兵士は、完全に震え上がって、声が裏返ってしまっている……。
 揺れによる転倒に注意しつつ、兵士たちは見張り台に上がる。見張り台は窮屈だが、なんとか全員上がることができた。兵士たちは、見張り台から首都の外側を見る。

 ……そこから見た景色に、一同は言葉を失うしかなかった。


 そこから見渡す限りの左右一帯が、ゴーリ軍の大軍に埋め尽くされようとしていたのだ……。
 大地が手前側に向かって、どんどん見えなくなっていく。荒れ地にわずかに見えていた草木は、兵士や兵器によって踏みつぶされた。今はまだ昼前だが、大軍のあちこちで松明が掲げられており、どれほど大規模の軍勢なのかがよくわかる。
 だが、そのわかりやすさのせいで、見張り台の兵士たちは黙りこむしかなかったのだ……。彼らの心は、死の恐怖で埋め尽くされていた……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん