愛憎渦巻く世界にて
物陰から様子を伺っているマリアンヌとゲルマニアは、国王が真実をを話し始めたことに安堵していた。彼女たちが心から安堵できたのは、久しぶりのことだ。さらに、これは時期尚早だが、これで戦争が終わるという期待すら抱いた。
だが、国王が続けた言葉に、その期待は打ち砕かれた……。
「しかし、ここで戦うことを止めるわけにはいかんのだ! 今の大義は、あのゴーリ王国に勝利すること自体なのだ!」
国王は、戦争をこのまま続けるつもりでいたのだ……。しかも、敵対心だけで戦争を続けようというのである……。
「ここで戦うことを止めれば、死んだ者たちの死を無駄にすることになるぞ!」
さらに国王は、すべての犠牲や苦労が無駄になってもいいのかと、群衆に訴える……。もはや脅迫だ。
「やはり最後まで戦わなくては!!!」
「そうだそうだ!!!」
ところが群衆は、国王の戦争続行宣言に歓声で応えてしまう……。自分たちがこの戦争に捧げたすべてが、無駄に終わってしまうことを恐れているのだ……。おそらく、国王の脅しに乗ってしまったという自覚すらないだろう。
そんな群衆のそばにいたシャルルたちは、病的ともいえるその熱気にたじろいでいる……。
「マリアンヌの親父さん、口上手だな」
「ウィリアム様もですけどね」
ウィリアムとメアリーが小声で話す。
「このわからず屋!!!」
怒ったマリアンヌが物陰から飛び出し、国王の背中をドンと押す……。国王は、バルコニーの手すりにうつ伏せで倒れた。もう少し勢いが強かったら、そのままバルコニーから落下してしまっただろう。
「何をするのだ!!! マリアンヌ!!!」
突然の出来事に国王はびっくりしている。それは、周囲にいる大臣たちや人々も同じであった。
「どうしてまだ戦い続ける必要があるの!!! 大義が無いのに無意味だわ!!!」
彼女は、自分のほうへ振り向いた国王の胸を何度も叩く。
「マリアンヌ! もう止めろ!」
物陰から出てきたゲルマニアが、拘束されたままの両手を器用に使い、マリアンヌを引っ張る。国王から引き離されても、腕を振るい続けるマリアンヌ。
「どうしてゲルマニアが、あそこにいるんだ?」
「まだ殺していないのか!」
バルコニーに登場したゲルマニアを見た人々がざわつく。少なくとも、敵国の姫が自国の国王といっしょにいるのを良しとは思わないだろう。
「さっさと殺せ!!!」
「この場で死刑にしろ!!!」
人々がさっそく、過激な主張を繰り出し始める……。ヒステリックな叫びが、国王に命中していく。