愛憎渦巻く世界にて
我慢強くないこの2人の姫は、国王と大臣たちが部屋から出ていくのと、さっそく動き始める。不用心にも国王は、この謁見室に兵士を残していなかったので、ゲルマニアは堂々と動くことができた。2人はもちろん、国王たちの後をつけるつもりだ。
「ちょっとあなたたち! どこに行くの!?」
同じように部屋に残されていた王妃が、部屋からこっそり出ていこうとする2人に言い放つ。
「お母様、安心して! ゲルマニアさんといっしょに、お父様を助けるだけだから!」
マリアンヌはそう言い返すと、ゲルマニアと共にドアの向こうへ消えていった。
王妃は、マリアンヌが敵国の姫であるゲルマニアと、まるで友達のように仲良く行動していることに驚き、それ以上の言葉を放つことはなかった……。彼女の横にいた、マリアンヌの今年10歳になる弟でさえ、そのおかしさに気づき、ただポカンと驚いていた……。
謁見室を後にしたマリアンヌとゲルマニアは、気づかれないよう慎重に、国王と大臣たちを尾行している。国王の国事を何度か見たことのあるマリアンヌは、国王たちがどこに行くのかをわかっていた。行き先は、城下町を一望できるバルコニーだ。そこからだと、城門前に集まっている群衆に呼びかけることができる。
国王と大臣たちは、歩きながらの会議をしていた。群衆に何を言い、解散をどう呼びかけるかだ。首都の人々が、王城前に集結するのは、今回が初めてというわけではなかった。大飢饉や大増税の度に、苦しむ人々が集結していた。
だが今回は、ムチュー王室への信頼が懸かっていた……。ただでさえ人々は、長引く戦乱で疑心暗鬼に陥っている。そのうえ、彼らの最後の要であった王室までもが、自分たちを騙していたとなれば、人々は怒り狂うことだろう……。もしそうなれば、革命でも起こるのに違いない。そうならないよう、国王には慎重な対応が求められている。
しばらくすると、国王たちは、バルコニーへ出る両開きのドアの前まで来た。国王は深呼吸をすると、ドアの両脇に立つ兵士に開けるよう命令した。ドアは、ゆっくりと外側へ開いていく。
開け放たれたドアをくぐる国王。柱の陰に隠れているマリアンヌは、父親である国王が真実を話してくれるよう願っていた。
城門前にいた群衆は、バルコニーに現れた国王に気づくと、
「国王陛下!!! この戦争の大義はどうなったのですか!?」
「我々を騙していらっしゃるのか!?」
口々大声を張り上げる。どの言葉も今までよりも強烈で、それを受けた国王は、今すぐ逃げ出したい気分に襲われた。もちろん、ここで逃げ出すことなどできない。
「民よ!!! 聞いてくれ!!!」
国王が呼びかけると、群衆は静まり返る。
「隠し立てをするつもりは無い! この戦争に大義が無くなった話は真実だ!」
観念した様子の国王がそう言うと、群衆は静寂を破り、ざわつき始める。