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愛憎渦巻く世界にて

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「何者だ!!!」

 窓ガラスが割れる音を聞きつけた兵士が、私室になだれこんできた。シャルルがカートで倒した兵士と同じく、近衛兵だった。たちまち、ウィリアムとメアリーは、近衛兵たちに取り囲まれ、彼らの剣がウィリアムとメアリーのほうに向いた。近衛兵たちは殺気を漂わせていた。もし国王や国王妃の身に何かあれば、自分たちの身が危なくなるのだから、当たり前のことだろう……。
 だが、ウィリアムとメアリーは平然としており、平然としていなかったのは、国王と国王妃のほうだった……。
「剣を収めよ!!!」
国王が肩を震わせながら叫ぶ……。
 近衛兵たちは、「なぜ?」という表情で国王を一斉に見た。
「今すぐ、剣を収めなさい!!!」
国王妃もヒステリックに叫ぶ……。
 そこで、近衛兵たちは、顔を見合わせながら、剣を鞘に収めた。剣を収めた近衛兵たちは、ウィリアムたちをまじまじと見た。
「あっ!!!」
近衛兵の1人が、間抜けな声をあげた。どうやら、ウィリアムの正体に気づいたようだ。
「こちらにいらっしゃるのは、タカミ帝国の次期皇帝である、ウィリアム皇子なのだぞ!!!」
タカミ帝国よりも下の国家のトップである国王が声を震わせながら叫ぶ……。その途端、近衛兵たちは小さな悲鳴をあげた……。情けない近衛兵たちである……。

 ウィリアムはタカミ帝国の皇子だ。ついでに、メアリーはウィリアム皇子付きのメイドだ。2人は、ムチュー王国とゴーリ王国との戦争をやめさせるために、旅をしているのだった。

「国王陛下、人払いをお願いします」
ウィリアムがニコリとしながら、国王に言う。
「しょ…承知した」
国王は焦りながら、そう言うと、近衛兵たちを部屋の外へ出した。近衛兵たちは、「国王陛下の御命令だから、渋々下がる」という態度をわかりやすく表現しながら、部屋から出ていった……。おそらく、近衛兵たちは、面倒な場から逃げることができたと、心の中では喜んでいるだろう……。

「本日はお願いがあって参りました」
近衛兵たちが部屋から出ていった後、ウィリアムがそう言った。
「お願いとは?」
気持ちが落ち着いてきた国王が尋ねる。
「ゴーリ王国との戦争を止めてほしいのです」
ウィリアムは、はっきりとそう言った。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん