愛憎渦巻く世界にて
あの地下室で、シャルルがマリアンヌに、地下室からの脱出方法を教えていたころ、ウィリアムとメアリーは、王城の屋根の上にいた。屋根のすぐ下は、国王の私室だった。ドアの前の警備が厳しかったので、屋根から私室に入ることにしたのだ。2人は屋根のてっぺんからロープでぶら下がっており、まるで特殊部隊が突入するよう
な格好だった……。2人とも真剣な面持ちで、すぐ下の私室の窓を見下ろしていた。
「シャルルは大丈夫でしょうか?」
メアリーがウィリアムに言う。
「彼なら大丈夫さ」
ウィリアムが私室の窓を見ながら言う。
「……その根拠は、この物語の主人公だからですか?」
「ああ、そうだ」
ウィリアムが、はっきりとそう言うと、メアリーはやれやれといった表情で、
「絶対そうだとも言えないじゃないですか。主人公だって死ぬときは死にますよ」
そう言い返す。
「まだ第3章なんだぞ? ここで彼が死ぬという展開が起きたのなら、彼はこの物語の主人公じゃないと言えてしまうぞ?」
「それはどうでしょうね?」
「まあいい。メタな話はこれで終わりにしよう」
するとウィリアムは、元の真剣な表情に戻った。それと同時に、メアリーも真剣な表情に戻る。2人とも、今のメタな会話など、まるでもう忘れてしまったかのような表情だ。
「1、2の、3でいくぞ?」
「お決まりですね」
「ハイ、チーズにするか?」
「いいえ」
2人は体勢を整えた。両足に強い力を入れている。
「では! 1、2の」
「3!!!」
その瞬間、2人は屋根を思いきり蹴り、ブランコのような状態になった。そして、2人は、ロープを下へ緩めながら、下がった両足を私室の窓にしっかり向けた。
ガシャーーーン!!!
2人の両足が同時に窓に当たり、窓ガラスが大きな音を立てて割れる。ガラスの欠片が目に入らないように、2人とも両目をしっかり閉じていた。
ただ、私室のベッドにいた国王と国王妃は、両目を開けて唖然としていた……。国王と国王妃が何が起きたのかを理解できない様子で、ウィリアムとメアリーを見ていると、
「国王陛下、夜分遅くに失礼します。私が誰であるかは御存知ですね?」
とりあえず、ウィリアムが頭を下げて挨拶した……。メアリーも彼の後ろで頭を下げた。
「…………」
国王と国王妃はウィリアムが誰であるかを知っていたが、突然の訪問のショックで戸惑っているようだ……。こんな荒々しい訪問をされたのだから、当然のことだろう……。