愛憎渦巻く世界にて
「オイ!!! 大変なことになったぞ!!! 手伝ってくれ!!!」
兵営が、ジャックの話の真偽をめぐる大論争がスタートしそうな空気に包まれようとしていたとき、城門担当の兵士が兵営に駈け込んできた。
「今度はなんだよ? 王様が全裸で城下町を歩いているのかい?」
先ほどのあの兵士が、また茶化す。
だが、駈け込んできた兵士は、それを華麗にスルーし、兵営にいた兵士たちのほうを向き、
「城下町の人々が王城の前に集まってきているんだ!!! ゲルマニアを殺しても、タカミ帝国と同盟を結べない話は本当なのかとか叫びながらだ!!!」
必死の形相でそう告げた。
その途端、兵営の兵士たち全員の視線が、ジャックのほうへ向いたのは言うまでもない……。
ムチュー王国の首都で、この戦争の大義をめぐる大騒動が巻き起こっている頃、ゴーリ王国軍はその首都に向けて大行進していた……。
数えきれないほどの人馬が大地を踏み鳴らし、地震と思えるほど振動させている。また、金属製の鎧が揺れる無数の音が、不協和音となって鳴り響く。
ゴーリ王国各地から合流したゴーリ軍は、一帯の大地を覆い隠してしまうほどの大軍勢になっていた……。そして、すべての部隊の終結が完了したときには、ムチュー王国との国境線をすでに越えていた。
ムチュー王国内に入ったため、ムチュー王国の兵士たちに遭遇したり、砦を発見したりした。だが、ゴーリ軍の大軍勢に対して、それらは大行進の歯止めにはならなかった……。必死の反撃もむなしく、次々に撃破されていくムチュー軍の兵士たち。彼らはゴーリ軍に、余計な物資と戦意を与えただけであった……。
そんな大軍勢の中心部分には、あの兄君が馬に乗って進んでいた。彼のそばには、副官が馬に乗って進んでおり、護衛の王室騎士団もしっかりとついている。
ところが、初めての戦場なので、兄君の動きはぎこちなかった……。落馬しかけたり、変な方向へ馬を進めたりしているのだ。そんな情けない兄君に、周りの副官たちは笑いを堪えている……。念のため言っておくが、この頼りない兄君がこの大軍勢の司令官だ……。
ただ、そんなハンデなど、この大軍勢にはあまり関係無かった。それだけの自信が、大軍勢には備わっているというわけだ……。