愛憎渦巻く世界にて
「……言われてみると、確かに変だな……」
「ひょっとしたら、城勤めの連中はもう知っているんじゃないか?」
しばらく聞いていた兵士たちまでもが、ウィリアムの話に引き込まれ、うなずいて納得してしまった……。もう解散させたりする気は失せたようだ。
ふと気がつけば、シャルルが腰を抜かしてしまいほど多くの人々がウィリアムの話を聞くために集まっていた……。噴水広場にいる物乞いたちも、施しが無いことなど忘れて、ウィリアムの話を聞いている。
「……これで以上だ」
ウィリアムが最後にそう締めくくると、人々だけでなく兵士たちからも拍手が巻き起こった。まさに大喝采だ。それは、首都中の空気を震わせ、城下町の南側にそびえ立つ城へ届く……。
「おいおい!!! 大変だ大変だ!!!」
謁見室の前で立ち聞きしていたあの兵士が叫びながら、城の敷地内にある大きな兵営に駈け込んできた。今の彼の顔からは、必死さしか感じ取れない。
兵営にいた兵士たちは、一斉にその兵士に注目し、非番で寝ていた兵士たちも起きだす。
「どうした、ジャック? 町でパン屑の安売りセールでもやっているのかい?」
あの立ち聞き兵士の名前は、ジャックというらしい。
ジャックという名前は、一息ついて少し落ち着くと、周囲を見渡す。兵営中の兵士たちが、彼の周囲に集まっていた。
「……実は、ついさっき、謁見室の前で聞いてしまったことなんだがな」
「国王が、老けていらなくなった妾をオレたちにくれるという話かい?」
「この戦争について、国王たちが話していたんだ」
彼の一番近くにいた兵士が茶化したが、彼はスルーし、真剣な口調のまま話し続ける……。
「簡単にまとめると、あのゲルマニアを殺しても、タカミ帝国と同盟は結べないんだ!」
彼がそう言った途端、兵営にいた兵士たちは驚く。さっき茶化した兵士も驚いている。
「つまり、この戦争は関係無しに、ゴーリとタカミが同盟を結ぶってことか?」
「違う! 『先に相手の国の姫を殺せば、タカミ帝国と同盟を結べる』という大義が、もう無意味なんだ!!!」
彼はすぐに否定し、大義自体がすでに無効であることを話した……。
「……な…なんだって〜!!!」
「つまらない嘘はやめろよ!!! 上に知れたら、反逆罪になるぞ!!!」
兵営にいた兵士たちの中で、ジャックの話を信じたのは3分の1で、信じないのは3分の2という割合だ。ジャックがまともな男であることは皆知っていたが、話の内容が内容だけに、信じてもらえないのは仕方なかった。