愛憎渦巻く世界にて
「ようこそ、ゴーリ王国の姫であるゲルマニアよ」
クルップと同房の者たちとの喧嘩が始まろうとしていたころ、先ほどの謁見室では、ムチュー王国の国王がゲルマニアに挨拶をしていた。初対面ではなかったが、最後に顔を見合わせたのは、この戦争が始めるよりもずっと前のことであった。
「こちらへ招いてくださったことに感謝しております」
国王の挨拶に、ゲルマニアは皮肉で返した……。しかも、両手を拘束している手錠の鎖をガチャガチャと鳴らしながらだ……。
「それぐらいの無礼は許してほしい。なにせ今は、貴国と戦争中なのだからな」
「……今は、どういう大義で戦争をしておられるのか?」
ゲルマニアがそう言った途端、国王と大臣たちは驚きを顔に浮かべた……。ゲルマニアが、この戦争の本来の大義が無効であることを知っているのかと驚いたようだ。しかし、この態度はまずいと思ったのか、すぐに平静を装う……。
「それはどういう意味かな?」
国王はすっとぼけてようとしたが、ゲルマニアはそれを見抜き、
「陛下はもう知っておられるはずです! 『相手国の姫を先に殺せば、タカミ帝国と同盟を結ぶことができる』という大義が、すでに無効であることを!」
はっきりとそう告げた……。
「……な…なにを言うか! 死の恐怖で狂ったか?」
どうみても焦っている口調で、国王の隣りにいた大臣が叫んだ……。
「ではなぜ、マリアンヌをまた地下牢に閉じ込めない!? もし暗殺されれば、その時点で敗北なんだぞ!」
ゲルマニアが、マリアンヌをアゴで示したが、国王と大臣たちは無視し、
「まったく馬鹿げている!」
真実を認めてたまるものかという態度を決め込んでいる……。だが、ゲルマニアが正気であることは誰にでも明らかで、王妃は信じてくれたようだ。
真実を認めようとしないそんな国王と大臣たちに、ゲルマニアは業を煮やしたらしく、
「マリアンヌ!!! 真実を教えてやれ!!!」
マリアンヌに大声で求めた……。その強烈な大声に、彼女はビクリと驚いた。
「おまえは黙っておれよ!!! この女は狂っておるのだ!!!」
マリアンヌも真実を知っているのだと気づいた国王は、発言するなと彼女に釘を刺す。
だが彼女は、ここは自分が真実を言うべきだとすぐに理解した……。決心した彼女は、一旦深呼吸した後で、
「ゲルマニアさんが言っていることは真実です!!! 私と彼女の命を懸けた大義は、もう無効になっています!!!」
謁見室の外にまで響く大声で言い切った……。ゲルマニアも含め、彼女のこれほどまでの大声を聞いたことが無かったので、一同は思わず驚いてしまったほどだ。