愛憎渦巻く世界にて
シャルルたちは、城門へ向かう彼らを追いかけようとしたが、人々がジャマで進むことができない……。しかも、騒ぎを聞きつけた城下町の人々が、野次馬として集まってきてしまい、身動きすら取れなくなってしまった……。しかもその人々が陰になり、彼らの姿が見えづらくなってしまった……。
やっと視界が晴れ、身動きが取れるようになったときには、城門は閉まっており、マリアンヌやゲルマニアたちの姿は、どこにもなかった……。
ムチュー王国でそのようなことが起きていた頃、ゴーリ王国の王城の謁見室では、密偵がゴーリ国王にあることを報告していた……。
「なに!? ゲルマニアがムチューに!?」
その報告とは、ゲルマニアがムチュー王国の首都へ連行されているというものであった……。国王は、信じたくないという表情をしており、隣にいる王妃は両手で顔を押さえている。王妃は娘の身を案じていたが、国王は今後の国の行く末を案じていた……。
「あのバカ娘め!!! 自分が殺されれば、この国がどうなってしまうのかをわかっているのか!!!」
国王は、敵国に捕まってしまったゲルマニアに対して、大声で喚いた……。『先に相手国の姫を殺した国が、タカミ帝国と同盟を結べる』というこの戦争の大義は、もうすでに無効になっているが、今後の同盟交渉での口実としての利用価値はあるからだ……。
自分の娘の命ではなく、自国の運命を心配している国王に、王妃は眉をひそめた……。すると、王妃の隣にいたゲルマニアの兄君が、
「父上! いっそのこと、全戦力を注いで、ムチューの首都を攻撃してはどうですか!? このあいだの騒動の件があるとはいえ、妹を愛する者たちは数多くいます! ゲルマニアの救出作戦として打ち出せば、戦意は上がりましょう!」
と、国王に提案した……。兄君の口調は、お調子者のような感じだったが、国王はその提案を良いアイデアだと思ったようだ……。
「よし!!! おまえを司令官に命令する!!! ただちに、ゲルマニアをここに連れ戻してこい!!! 全戦力をおまえに任せよう!!!」
国王は、王城中に響き渡るような勇ましい大声で、兄君にそう告げた……。威厳に満ちた真面目な命令口調だった。
「ハッ、わかりました父上!」
快く命令を受け入れた兄君は、不気味な笑みを浮かべている……。
彼は、今回の件で武勲を立てれば、ゲルマニアはもう自分に頭が上がらないだろうと考えていた……。彼が戦争の実際の指揮をとるのは、今回が初めてだ。だが、全戦力を使える上に、ムチュー王国がこの戦争で自国よりも疲弊しているという情報が、彼の耳に届いていた……。ちなみに彼は国王と同じく、ゲルマニアの身を案じてなどいなかった……。
「楽勝のいい初陣になりそうだ!」
準備のために謁見室を出た途端、彼は楽しそうに呟く……。そして、不気味なにやけ顔で、準備に向かった……。