愛憎渦巻く世界にて
「この魔女め!!!」
「さっさと死ね!!!」
沿道の人々は、歓声を浴びせているマリアンヌと兵士たちとは違い、ゲルマニアとクルップには厳しい声を浴びせていた……。しかも、暴言だけでなく、石まで浴びせている……。狂気に満ちた彼らを突き動かしているのは、愛国心だけでなく、家族や故郷の仇でもあった……。シャルルが、ついこの間に陥った心理状態である……。
「クッ!」
「痛いじゃねーか!!!」
詳しい事情など知らない人々に、石を次々にぶつけられるゲルマニアとクルップ……。その光景は、マリアンヌがゴーリ王国で石をぶつけられたときと変わりなかった……。隊長や兵士たちは、笑ってそれを見ている……。
もちろん、後ろにいるシャルルたちは、それを止めようとしたが、狂気じみた人々に圧倒されてしまい、一歩踏み出せずにいた……。メアリーさえも躊躇するほどの狂気が、人々を支配している……。
「やめてください!!!」
マリアンヌが、現在進行形で石をぶつけられているゲルマニアとクルップの元へ駆け寄り、2人をかばうようにして立った……。
「イタッ!」
突然のことだったため、石の1つがマリアンヌの額に命中してしまった。幸いなことに、勢いがついていない投石だったため、軽い傷で済んだ。
「…………」
それでも、自分たちの姫を傷つけてしまったことには変わりはなく、その場の空気は凍りついた……。
ただ、人々が凍りついた理由はそれだけではなく、マリアンヌが敵国の人間であるゲルマニアとクルップをかばったからでもあった……。
「どういうことだ?」
「なんで、ゴーリ王国の奴をかばうんだ? それもあのゲルマニアをだぞ?」
当然だが、人々のあいだに戸惑いの声があがる……。何人かの人は、疑念の目で隊長たちを見ている。
本当に彼女はゲルマニアなのかや、この戦争は出来レースなのではないかという疑惑が沸き始めている……。悲惨な戦争のせいで、人々は疑心暗鬼に陥ってしまっているようだ……。人々が沿道から出てきて、一同を取り囲み始める……。
「おい、早く連れていけ!!!」
そんな人々に焦ったのは、隊長や兵士たちだった……。このままこの場にいれば、大混乱に陥ることは間違いない……。
力づくで兵士たちに連行されていくゲルマニアとクルップ……。そして、2人の女兵士に引っ張られていくマリアンヌ。彼らが向かう先には王城があり、合図を受けた門番の兵士たちが、城門を大急ぎで開いている。たまたまだが、門番の1人は、シャルルたちが以前騙したことのある男だった……。