愛憎渦巻く世界にて
「あっ、お兄様の字だ!!!」
その元気いっぱいの声は、ブリタニアであった……。いつの間にか彼女は、ビクトリーの背後に立ち、手紙をのぞきこんでいた。彼は、少しも彼女の気配を感じ取れなかったらしく、ビクリと驚いてしまう……。
「お兄様ったら! 私を置いて、ムチューの首都に行っちゃったのね! ずるいわずるいわ!!!」
手紙を読んだらしい彼女は、ブ〜ブ〜と文句を垂れ始める……。兄のウィリアムたちを羨ましがって、その場で地団駄を踏む彼女は、幼い駄々っ子のようであった……。
彼は、彼女に手紙を読まれてしまったことを後悔した……。そして彼は、彼女が次に発するであろうセリフを、簡単に予想することができた……。
「私も、ムチューの首都に行く!!!」
……ビクトリーの予想は、見事に的中してしまった……。ブリタニアの決意はとても固そうだったが、彼は臆することなく彼女に、
「いけません! 危険です!」
無礼ではないレベルの強い口調で言う。このセヌマンディーはともかく、戦争中である国の首都に彼女が行くのは危険であった。
ところが、彼女は少しもひるむことなく、
「あなたたちはこれから、お兄様たちを追いかけるのですよね?」
そう尋ねる。誘導する感じの口調だ……。
「もちろんです! ウィリアム殿下を置いて帰国などできません!」
「あら? じゃあ、この船に残る人間は少なくなるわよね?」
これは脅すような口調だ……。彼女が言いたいことは、「見張りが少なくなるから、船から降りやすくなるわ!」というゲスな趣旨であった……。彼女をこの船に置いていったら、自力でついてきてしまいそうだ……。
彼女が言いたいことを理解できた哀れな彼は、
「……しょうがないですな。いっしょに来てもいいですが、私のそばを絶対に離れてはなりませんよ!」
彼女の同行を許可するしかなかった……。そのときの彼の口調は、先ほどの隊長が、シャルルたちの同行を仕方なく認めたときのそれと同じであった……。
ビクトリーが許可を出した途端、ブリタニアは飛び跳ねて、無邪気にただ喜んでいた……。そんな彼女に、ビクトリーはこっそりため息をつくしかなかった……。