愛憎渦巻く世界にて
しばらく睨みあっていると、取り囲んでいるムチュー兵たちの隊長が、ゆっくりと歩み出てきた。
「ゴーリ兵と国賊とタカミ人に告ぐ!!! マリアンヌ様を解放せよ!!! 今すぐ解放すれば、悪いようにはしない!!!」
その隊長は、大声でシャルルたちに言った。
ゴーリ兵とタカミ人はともかく、国賊とはシャルルのことであった……。国賊扱いされていることに、シャルルは屈辱感を覚えたらしく、
「ぼくは国賊じゃない!!! それはマリアンヌが証明してくれる!!!」
そう反論した……。だが、
「おい!!! マリアンヌ様を呼び捨てにするとは何事だ!!!」
揚げ足を取られてしまった……。
すると、ゲルマニアが火に油を注ぐ発言をし、双方による激しい口論が巻き起こってしまった……。それらの発言を、議事録のように1つ1つ取り上げていたら、大変な長さとなるために割愛するが、売り言葉に買い言葉の見本市状態であったことは、絶対に間違っていない……。
「私が自分から城に戻れば、この方たちを許していただけますか!?」
激しい口論に割って入る形で、マリアンヌが大声でそう提案した……。その途端に、口論はぴたりと止む……。
シャルルたちは、そんなのダメだという表情で彼女を見る。隊長とムチュー兵たちには、彼女が人質だと思っているので、その発言にきょとんとしていた……。
だが、隊長は、気を取り戻した様子で咳払いをすると、
「わかりました、マリアンヌ様。そういうことでしたら、その者たちを許してやります」
マリアンヌの提案を受け入れてくれた……。
「私たちの心配など無用だ!」
だが、シャルルたちは、マリアンヌの提案に納得できずにいた……。ここまでいっしょに来たのにという気持ちでいっぱいだった。
「いいんです! これは、目標達成のためでもあります!」
彼女はそう言い切り、シャルルたちにそれ以上何も言わせなかった……。
マリアンヌはシャルルたちに一礼をすると、ゆっくりと隊長のほうへ歩いていく。立派な手柄を得られるためか、隊長は笑顔だ……。
そして、彼女は隊長の前で立ち止まり、両手を広げ、
「さあ、あの方たちの包囲を解いてください!」
隊長に要求を実行させる。すると、隊長は、シャルルたちを取り囲んでいるムチュー兵たちに向かって、
「仕方ないが、国賊とタカミ人を逃がしてやれ!!! だが、ゴーリ人は捕まえろ!!!」
と、命令を下した……。バカにでもわかるほどの約束破りである……。
{もしかして、この隊長は実は作曲家で、耳が聞こえないのかしら?}
バカバカしいが、マリアンヌは一瞬そう考えてしまった……。