愛憎渦巻く世界にて
第28章 ヨク
シュッ!
シャルルとディーブたちとの勝負の決着がつこうとしたとき、シャルルの耳に風を切る音がした……。それは聞き慣れた音だった……。
「うわ!」
次の瞬間ディーブの手から、シャルルに向いていた短筒が弾き飛ぶ……。ディーブの手から離れた短筒は、2階の手すりから1階にカチャリと落ちた。
「痛い痛い!!!」
間抜けな叫び声をあげるディーブ……。右手の指の間に、1本の矢が突き刺さっており、そこから血がボタボタと垂れている。
「まったく! 君は本当に単独行動が好きだね!」
弓を構えているウィリアムが、いつの間にか大広間にいた……。
「ウィリアム!!!」
思わずほっとするシャルルだったが、ウィリアムは苦笑いしている。
「……たしか、あなたもふ頭にいましたね?」
痛そうに刺さった矢を抜きながら、ディープが苦々しく問いかける。
「正解!」
ウィリアムはそう答えると、弓に次の矢をセットする。
「ちょうどいいですね! 2人まとめて人質になってもらいましょう!」
ディーブは自信満々な様子でそう言うと、残り5人の手下たちに合図を送る。
「こうなりゃヤケクソだ!!!」
「ガキにやられたなんて、末代までの恥にしかならねえぜ!!!」
5人の手下たちが一斉に武器を構え直し、シャルルとウィリアムに襲いかかる。その言葉通り、ヤケクソの攻撃にしか見えないが、悪党らしい威圧感は十分にある。特に先頭の大男は、両手に1本ずつ手斧を持っており、殺気むんむんであった。
「来い!!!」
「的が近づいてくるだけだな」
だが、シャルルとウィリアムは、敵が放つ威圧感に臆することなどなかった。
まず、ウィリアムが矢を放ち、先頭にいた手下の脳天に突き刺さる。勇ましく突撃していたその手下の大男は死体となり、そのまま前のめりに倒れた。手にしていた2本の手斧が床に刺さる。
すると、その倒れた大男の死体に、後ろにいた手下たち全員が次々につまづいてしまい、そのままいっしょに転ぶ……。ヤケクソに突撃したせいで、死体を避けられなかったようだ……。盛大に転んだため、2人は思わず吹き出してしまう……。
転んだ手下たちが立ち上がり、2人に向き直ろうとする。しかし、その前にウィリアムの矢が飛んできて、槍を持った手下の女の息の根を止める……。