愛憎渦巻く世界にて
ドアを開けると、そこは薄暗い廊下になっていた。ただ、ドアを開けて入った途端、不快極まりない強烈な異臭が鼻を突き、シャルルは顔を歪める……。何かが腐ったような匂いだが、ふ頭で嗅いだ腐乱死体の匂いとはまた違うものだ。鼻を押さえつつ、慎重に廊下を進むシャルル。
廊下の先にある部屋で、ロウソクが光を放っていた。この強烈な匂いの元は、そこにあるようだ。
廊下の先にある部屋は、少し広めのキッチンだった。一般家庭のそれとは違い、多人数の食事を一度に作れるようになっていた。
だが、この強烈な匂いの元は、そのキッチンであった……。当たり前だが、不快な匂いを放つ生ゴミの存在は、キッチンには付き物だ。ただ、すぐに片付けさえすれば、匂いが充満することは避けられるはずだ。
どうやら、このキッチンを使っていた連中はうっかり者揃いらしく、生ゴミがゴミ箱から溢れだし、床に散乱していた……。キッチン中の放置された生ゴミが、この強烈な匂いを放出していたのだ……。ハエの大群が、狂喜に満ちた様子で飛び回っている……。
しかも、放置されているのは生ゴミだけでなく、使った後の食器類もだった……。ソースなどで汚れた皿が、感心できるほどの高さで、あちこちに積み上げられていた……。ひょっとして、使い捨ての食器類と勘違いしているのだろうか……。
シャルルは、こみあげてくる吐き気を抑えつつ、キッチンから早く出るために、もう1つのドアへ向かう。そして、慎重にドアを開ける……。
ドアの向こうは、あの2階式の大広間になっていた……。テーブルやイスなどが散らばっている。その散乱さは、キッチンに負けないほどであった。
人の姿が見えなかったため、シャルルが周囲を見渡し始めると、
「やあ!!! また会いましたね!!!」
ディーブの大声が大広間に響き渡った……。シャルルは、大急ぎで剣を抜く。
「出てこい!!!」
シャルルの剣は、ロウソクの光をほのかに反射させていた。
「威勢がいいですね」
ディーブは、大広間の2階にいた。ところどころ壊れている木の柵に両手を置き、シャルルを見下ろしている。
「おい、ボウズ! あまり怪我をしたくなかったら、さっさとその剣を置きな!」
「そうだぜ! おまえは大事な人質になるんだからな!」
シャルルが尾行していたあの2人の男が、ディーブの横に立ってニヤニヤしていた……。それと同時に、2か所ある階段の両方の影から、合わせて10人以上のディーブの手下たちが出てきた……。全員、凶器を構えており、剣や斧だけでなく、クロスボウを所持している者もいた。
どうやら、シャルルは罠にはめられたようである……。ディーブは、誰かを人質にするために、わざと尾行させ、ここへおびき寄せたのだ……。
見事に騙されたシャルルの心は、悩んだあげくの尾行だったこともあり、屈辱と怒りで満たされた……。