愛憎渦巻く世界にて
シャルルはすぐに、ディーブの手下であるあの2人に追いつくことができた。もちろん、尾行に気づかれないように、一定の距離は置いている。ただ、足元の瓦礫で音を立てないように進むのは、一苦労なことであった。
もしあの2人に発見されてしまえば、その場で殺されることは間違いないだろう……。もし、そうなれば、マリアンヌたちに別れを告げることができなかったことを悔やむことになる。それに、この戦争の終わりを、自分の目で見届けることもできない。
尾行している2人は、まだ金についての話をしていた……。どうやら、他の話題は持ち合わせていないようだ。
{金儲けしか興味がないのか……}
シャルルは呆れながら、慎重に尾行を続ける。こんな奴らを尾行すること自体が嫌になりそうだったが、我慢するしかない。
太陽はすでに真上に昇っており、強い直射日光が降り注ぐ。海からの潮風がかすかに吹いていたが、それでも暑く感じた。この暑さや緊張感からくる汗が、シャルルの顔をどんどん滴り流れていく。
しばらく尾行を続けていると、あの2人は、メインストリートよりも狭い脇道に入っていった。シャルルも慎重に後に続く。
建物と建物との間にあるその脇道は、なぜか瓦礫がちゃんと片付けられており、歩きやすかった。ただし、それはとっさに隠れることが可能な瓦礫が無いということだ。メインストリートほどの幅でないとしても、その脇道の幅は、馬車1台が容易に通れるほどはある。見通しがいいため、振り向いた2人に見つかってしまう可能性が高い……。
そのため、シャルルは。死角である角で一旦様子見をしてから、追うことにした。それでも、角から角へと移動するときは、慎重を欠かさない。
脇道のいくつかの角を曲がった2人は、2階建てのレンガ造りの建物の中へ、粗末なドアから入っていく……。そのドアの近くには、馬屋が立っており、ふ頭で遭遇したあの装甲式の馬車が停まっていた……。その馬車のすぐ横には、昼寝中の馬2頭がいる。
その建物は、ディーブたちのアジトである元酒場であった……。シャルルは、ディーブたちのアジトを突き止めることに成功したのだ。せっかくここまで来たのだから、内部の偵察が必要である。
ところが、シャルルの両足は恐怖心で震えていた……。1人で敵のアジトへ侵入するのだから、当然の反応だといえる。ただ、ここの場所を覚えた上でふ頭へ戻り、ウィリアムたちと共にまたここへ戻ってくることも可能だ。
だが、せっかくここまで来たのだからという思いが、恐怖心を次第に凌ぎ、彼に次の行動を取るよう促した……。
覚悟を決めたシャルルは、その建物のドアへゆっくりと近づいていく……。