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愛憎渦巻く世界にて

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 ディープがバカな手下たちに、わかりやすく説明をしてやっている頃、シャルルはセヌマンディーの町を1人歩いていた。鞘に収まっている剣が、カチャカチャと音を立てる。

 観光業で栄えていた港町『セヌマンディー』は、すっかり荒れ果ててしまっていた……。観光客どころか、町の人々の姿も無い。建物の窓ガラスはほとんど割られており、屋根や壁が崩れてしまっている建物も多い。この状態では、廃墟マニアの観光客ぐらいしか期待できないだろう……。
 シャルルは、こうなる前にこの町を一目見ておきたかったと悔やむと同時に、この町の復興を願った。

 もちろん、シャルルはこの町を散歩するために、ウィリアムたちから抜け出してきたわけではない。それでは、修学旅行で勝手に単独行動するのと同じだ。
 彼は、母親を殺し、故郷を木炭に変えたディーブたちに復讐するつもりなのだった。まだこの町にいるという保証は無かったが、自分の手で復讐を達成するために、やる価値は十分にあった。
 せわしなく周囲を見回し、ディーブや手下たちを探す。そのときの彼の目つきは、獲物を探す獣のそれと変わりなかった……。『血眼になって探す』とは、このことを言うのであろう。
 何か物音がする度に、彼はそちらに反応し、ゴーリ王国の紋章が入った立派な剣を向ける。もし、ディーブや手下たちがいたら、鉄砲玉のように突撃していきそうだ……。


 だが、しばらく探し回っても、ディーブや手下たちだけでなく、町の人々すら見つけることができなかった……。彼はひどくイライラしており、転がっていた空のタルを剣で叩き壊したり、内臓を撒き散らしている馬の死体を蹴ったりしていた……。そのときの哀れなシャルルの姿は、マリアンヌには見せられそうにない……。
 自分から勝手に抜け出してきた以上、今さらこのまま戻るわけにもいかない。何も得られない上に、ウィリアムたちから怒られるなんてバカみたいだからだ。

 シャルルはどうするかを考えるために、近くに落ち着ける場所が無いかを探す。今彼がいるのは、野良犬すらいないメインストリートだ。
 幸いなことに、少しだけ離れたところにある瓦礫の小山の近くに、木のイスが転がっているのを見つけることができた。彼はイスを立たせると、瓦礫の小山を背に座る。そして、思考の時間に入る。
 彼はまず、ディーブたちへの復讐心を養うために、母親が殺されたことや村が襲撃されたことを思い出していく。

 無残に焼かれた母親。剣などで惨殺された村人たち。盛大に燃え盛る家々。炎に照らされた血だまり。

 しかし、それらを矢継ぎ早に思い出していったとき、かつての自分の言葉と初心も同時に思い出した……。
『……母さんは、復讐なんて望んでいないと思います。優しい人でしたから』
それは、ウィリアムに復讐心の有無を問われた際に答えた自分の言葉であった……。あのとき、自分は復讐心など持ち合わせていなかった……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん