愛憎渦巻く世界にて
第27章 ハラノムシ
シャルルたちから逃げ去ったディーブたちは、セヌマンディーからそのまま逃げ出すことはせずに、その町にあるアジトへ逃げ込んだ。鉄製の荷車を引く馬車は、その建物の裏手にそっと隠される。
そのレンガ造りの建物は、この港町にいくつもある観光客向けの酒場のうちの1つであった。今は激しい戦闘のために閉店しており、ディーブたちがアジトとして利用している。表口と窓は、すべて木の板で覆われていた。表口のドアには、『戦乱のため休店。店主より』と書かれている。
その店主の言葉に説得力を持たせるかのごとく、元酒場の建物は大ダメージを受けていた……。子供が通り抜けられそうなほどの大きさの穴が、建物のあちこちに空いている。倒壊することはまず無いが、このまま酒場として営業するのは、とても無理な話である。
だが、建物が大ダメージを受けているのはこの酒場だけではなく、この町全体が大ダメージを受けてしまっていた……。観光地としてのかつての賑わいは無くなっており、この町の住民たちは、町から逃げ出すか家に閉じこもるかしかなかった……。
アジトに戻ったディーブたちは、2階式になっている大広間にて、次の作戦を練り始めた。彼らの目的は、マリアンヌではなく、シャルルたちが乗ってきたネルソン号にいくつもある最新型の大砲だ。余裕があれば、船自体もそのまま頂戴するつもりらしい。
作戦を練っている彼らの背後の壁際には、「戦利品」がたくさん置かれている……。指輪などの貴金属類からパン1つまで、彼らは火事場泥棒によって手に入れていたのだ……。
彼らはすでに十分な稼ぎを得ていたが、もっと儲けたいようだ。金欲にまみれたその目つきは、飢えた獣と変わりない……。
「夜になるのを待って、ボートで船に近づこう」
「いや、そこは逆をつくべきじゃないか?」
「おいおい! 真昼間に堂々と、あの大砲だらけの船に近づくってか!? じゃあ、おまえが手本を見せてくれよ!?」
「文句があるなら代案を出せ!」
「俺はおまえほど恵まれて育っていないから、頭が良くなくってね!?」
「それはどういう意味だ!」
ディーブたちは、ヤジも飛び交う白熱した議論を繰り広げている。ただ、その議論は言い争いと化しており、子供の口喧嘩か日本の国会と同じレベルであった……。
「諸君、私はよく考えてみたんだが……」
ディーブがもったいぶった口調でそう言い始めると、低レベルな議論を繰り広げていた彼の手下たちは、すぐに口を閉じる。ディーブは頭がいいらしく、手下たちは彼を信頼しているようだ。
「わざわざ、こちらから出向く必要は無いと思う」
ディーブの言葉を聞いた手下たちはバカなので、彼の言葉をうまく理解できていない様子だった……。頭の上に大きなハテナマークが見えそうだ。
彼はため息をついた後、誰にでもわかりやすく、自分の考えを手下たちに説明し始める……。