愛憎渦巻く世界にて
彼は、そんな大事なことをなぜ忘れてしまっていたのだろうかと、自分を責めた……。それほど長くはないものの、厳しい冒険だったせいだろうか。だが、どんな理由が成立するにしろ、復讐はしないという大事なこと忘れてしまったことには違いない。
{自分はすっかり変わってしまったのだろうか?}
シャルルは自分が怖くなると同時に、復讐を断念するしかないと考え始めた。だが、復讐心は恐怖心に匹敵しており、復讐を実行するか断念するかで、ひどく悩むこととなった……。
愛するよりも憎むほうが簡単だ。ましてや、ディープは親の仇なのである。簡単に許せるはずがない。しかし、復讐はさらなる復讐を生む。それでは、自分の良心と目標の達成に反することになる。
「なあ、オレたちの分け前はどうなるんだ?」
「少なくとも、10年間遊んで暮らせるぐらいはもらえるんじゃないか?」
「なんだ。たったの10年分か……」
「たったのって、あまり贅沢は言えないぜ」
シャルルがひどく悩んでいたところ、2人分の喋り声が町のどこかからか響いてきた。荒れ果てた港町は静寂に満ちていたため、その会話は、はっきりと耳に届く。だが、その声は反射して響いているため、声の方向がわからない。
シャルルは、木のイスから降り、その場にしゃがみ込んだ。そして、瓦礫の隙間から周囲を見渡す。
2人の若い男が、右前方の角から歩いてきた。どちらの男も手に凶器を持っており、外見は小悪党っぽかった……。誰がどう見ても悪役だったため、シャルルは見つからないよう注意する。
その2人の男は、彼の目の前を横切る形で、右から左へと歩いていく。2人とも、兵士のような服装をしたゴーリ人で、腰に剣をぶら下げていた。
{あの2人、さっきふ頭にいた奴らだ……}
彼はその2人の男が、ふ頭にいた連中の一味であることに気づいた……。シャルルは無意識に拳を固くしていた……。
「稼ぎどきのピークはもう過ぎちゃったかな?」
「いや、まだこれからだろ。泥沼化しつつあるからな」
金稼ぎの話をし続ける2人。
そして、2人は彼に気づくことなく、左前方の角に消えていった。
{……どうしよう}
シャルルは、あの2人の跡をつけるべきかで悩む。尾行の末、復讐の道を歩むことになるのでないかと思えるからだ。
だが、自分のような被害者がこれ以上増えるのを防ぐ観点から、このまま見過ごすわけにもいかなかった。うまくいけば、ディーブたちが、血で汚れた金をさらに得るのを防ぐことができるのだ。特に彼にとって、これは義務だといえた……。
シャルルは、これは復讐ではなく使命だと自分に言い聞かせると、あの2人の尾行を開始した……。