愛憎渦巻く世界にて
その男や他の連中は皆、ゴーリ王国の兵士の格好をしている……。だが、なんとも適当な着方で、一応着ているという感じだ。どうやら、もうゴーリ軍の兵士ではないらしい。
もし本当に、ゴーリ軍の兵士ならば、敵国ではないタカミ帝国の人間(髪の色で簡単にわかる)を、理由もなく殺すわけがない。
もはや、兵士崩れの強盗団になっているといえる……。ゴーリ王国に対しての忠誠心など、既に失っているだろう。
そして、先ほどの暴走馬車の件も、彼らの仕業なのであった。
「……あ、あの男は……」
ゲルマニアは、その男の顔に見覚えがあるようだった……。彼女が男の正体を思い出そうとしていると、男はニヤニヤしながら、
「私が誰だがわかりませんか? 以前、あなたに剣を突きつけられた者ですよ?」
自分から正体を明かしてくれた。話が早くて、作者も助かる。
その男の正体は、第1章のゲルマニア初登場シーンに登場した、火事場泥棒の兵士たちの隊長であった……。詳しくは第1章を読んでいただければわかる話だが、火事場泥棒を恥じるゲルマニアは、そんな隊長に剣先を突きつけてやったというわけだ。
だが、その一件の後、彼は堂々と開き直り、ゴーリ王国の一部隊の隊長であることを放棄して、火事場泥棒などの悪事に、しっかりと手を染めることにしたようだ……。そして、彼と一緒にいる者たちは、彼の部下だった者たちであった。
「楽しそうな水泳中に申し訳ありませんが、あまり時間が無いので、このまま自己紹介させていただきましょう。私の名前はディーブといいます。言うまでもありませんが、ついこのあいだまで、ゴーリ軍に所属しておりました」
わざとらしい丁寧口調で、ディーブという男は自己紹介をした。
「そんなことはわかっている! おまえは自分がしていることがわかっているのか!?」
ゲルマニアはディーブを一喝する。しかし、彼は余裕気な様子で、
「タカミの野郎を殺しただけですが? 何か?」
彼女にそう返事した……。悪気など少しも感じていないようだ。
「ずいぶん自信満々な悪党どもだな。おまえらは、我が国を敵に回したのだぞ? 今のうちに遺書を書いておくといい」
これはウィリアムだ。いつも通りクールだが、心の中は怒りで満ちていた。だが、ディーブは、彼の脅し文句を聞いた後も余裕気であった。ディーブは深呼吸してから、
「本当に悪党なのは、あなた達タカミ帝国ではないのですか? 適当なことを言って、私たちの国とムチュー王国とを争わせたではありませんか?」
と、嫌味ったらしく言う……。だが、ウィリアムは思うところがあったのか、何も言い返せずにいた……。ただ、メアリーは、言い返さずにはいられなかったらしく、
「元はといえば、ゴーリ王国とムチュー王国が競い合う形で、我が国に同盟を結ぶよう迫ってきたからでしょうが!!!」
両手で水しぶきを立てながら叫んだ……。
「シャルル、おまえの村を焼いたのは、あいつらの仕業で間違いないぞ」
ゲルマニアがシャルルに、初対面のときの話を教える……。その瞬間、シャルルの表情が劇的に変化した……。
「おい、おまえ!!! 母さんや村を焼いておいて、よくのうのうと生きていられるな!!!」
彼は激怒し、ディーブに激しく言葉を浴びせる……。