愛憎渦巻く世界にて
第26章 ショアクノコンゲン
シャルルたちは、海中からふ頭の爆発を見上げていた。水越しに、爆発による炎と破片が見え、かなり威力のある爆弾だったということがわかる。もし、急いで海に飛び込んでいなければ爆発により、体全体が破片と化していただろう……。
爆発によって生じた破片の多くは、水しぶきを立てて海に落ちた。シャルルとマリアンヌのすぐ横を、荷車のものと思われる木製の破片が、海の底へ沈んでいく。
シャルルはマリアンヌの手を引き、海面に上がる。ウィリアムたちも、彼らのすぐ近くに浮上してきた。シャルルたちと同じように海に飛び込んだ兵士たちは、もう海からふ頭に大急ぎでよじ登ろうとしている。重いマスケット銃は、海に放棄することとしたようだ。
「大丈夫ですか!? 船長!!!」
一番乗りでふ頭によじ登った兵士が、辺りを見回しながら叫んでいる。
シャルルたちはこのときになってから、ビクトリーが自分たちと同じように、海へ飛び込んでいないことに気がついた……。兵士たちは、ビクトリーの身を案じていたのだ。
「なんだおまえらは!?」
同じ兵士が、驚いた様子で叫んでいる。どうやら、ふ頭に誰かが何人かいるようだ。だが、その兵士の狼狽した表情から、ただならぬ連中が目の前にいることぐらいはわかる……。
だが、シャルルたちには、海面からのふ頭への角度から、どのような連中であるのかは、まったく確認できなかった。
「ぐっ!」
兵士の背中から、赤く染まった突起物がいきなり飛び出た……。そこから同時に血が吹き出し、ふ頭に昇っている途中の兵士たちに降り注ぐ……。いきなり血を浴びた何人かは慌てふためき、また海にドボンとなった。
兵士の背中にある突起物は、飛び出たとき同様、いきなり消えていく。背中から突起物が消えた途端、兵士は力無く仰向けに倒れこむ……。他の連中は見えないが、その兵士の目の前にいる人物の姿はなんとか見える。
その人物は男で、ゴーリ王国の一般兵が着る鎧を身に着けていた……。ただ、適当に着こなしており、ゲルマニアなら怒る着こなし具合である。ゴーリ王国の厳かなデザインである紋章が、チラリと見える程度だ。
その男は、先端が血で赤く染まった剣を手にしていた……。剣先から、血がポタポタと垂れている……。
男は、仰向けに倒れている兵士の顔を見下ろし、まだ海にいるシャルルたちに向かって、
「荷物だけ置いて、さっさと国に帰れ!!! ここはもう俺たちのもんだ!!!」
いかにも小悪党っぽいセリフを吐き捨てた。
そのセリフと同時に、ふ頭にいる他の連中が2、3歩前に出てきて、その連中の姿を見ることができるようになった。