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愛憎渦巻く世界にて

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「我々が偵察を行なう!!!」

 勇ましくそう言い出したのはゲルマニアだ。ただ、横にいるクルップは、なんとも嫌そうな目で彼女を見ていた……。とはいえ、わざわざ危険な偵察任務につきたくないのは、ウィリアムでさえも同じ気持ちであった。
「君たちを行かせるわけにはいかない!」
彼女の申し出は、ビクトリーにすぐ却下されてしまった。クルップは、心の中でほっとしたことだろう。
「もう子供ではないし、私とクルップは軍人なんだぞ! 自分の身ぐらい、自分で守れる!」
しかし、彼女は頑固者である……。

   ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!

 町のほうから、車輪が石畳を高速で走る音が聞こえてきた。その近所迷惑な音は、どんどん大きくなっていく。
「あの馬車、突っ込んでくるぞ!!!」
町のほうからこちらに向かって、タルを積んだ荷馬車が走ってきていた。乗り手はおらず、誰にも制御できそうにない。しかも、馬は興奮しているらしく、放置された木箱などを乱暴にどかしながら、猛スピードで向かってくる。このままいくとシャルルたちは、この暴走荷馬車にはね殺されるだろう……。暴走荷馬車は、ふ頭を走り続ける。

 ……もちろん、そんな事態に陥るのを黙って待つわけは無く、マスケット銃を構えた兵士たちが、一斉射撃を馬に喰らわせる。メアリーとビクトリーも、短筒で銃弾を放ったが、射程の問題で届いたのかどうかはわからない。
 さすがに興奮状態の暴走馬も、何発もの銃弾を喰らったため、に倒れこむしかなかった。だが、猛スピードのままの転倒のため、馬が引いていた荷車が馬を乗りあげていく……。その荷車は、若干スピードを緩めたものの、そのままシャルルたちや兵士たちに向かっていく……。荷車に積まれた数個のタルが、音を立てて揺れている。
「危ない!!!」
なんと、ビクトリーが彼らの前に飛び出し、自慢の筋肉隆々の両腕を使って、その荷車を押し止める……。よくある展開だが、お約束ということで御容赦してほしい。
「うぐっ」
荷車を押し止めるビクトリーは、数歩後退させられたが、なんとか止めることに成功した……。
 彼の勇敢な行動に、兵士や船員たちは歓声を上げた。もちろん、シャルルたちも歓声をあげる。沈んでいたマリアンヌは、いくらか元気を取り戻せたようだ。
「いてて、もう年か……」
荷馬車を押し止めた衝撃で、左腕を骨折してしまったらしい……。利き腕ではないとはいえ、痛そうにしていた。
普通、こういう臭いシーンのお決まりといえば、大事なことを言い残して死ぬものだが、幸いなことに、片腕を折るだけで済んだわけだ。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん