愛憎渦巻く世界にて
ところが、兵士やメイドが歩いているため、思うように進むことができない。今まではただの散歩だったので、廊下でどれぐらいの人数と遭遇するかなど、意識していなかったのだ。
慎重に移動していたわけだが、とうとう巡回の2組の兵士たちに前後を挟まれる形となってしまった……。このままではすぐに発見され、部屋に連れ戻された挙句、窓割りの件で執事に怒られることになるだろう……。
やはりそうはいかないらしく、彼女は周囲を素早く見回し、隠れられる場所がないかを探す。廊下には何も置かれておらず、やり過ごすのは絶望的かと思われたが、彼女はどうやら悪運が強いらしい。
「ここに入っちゃえ!」
躊躇なく彼女は、壁にあるダストシュートの中に飛び込むようにして入った……。見た目が悪くないように、綺麗な見た目のダストシュートだったが、内部は普通のと同じような汚さだ。
ガンッ! ゴンッ! ガンッ!
巡回の兵士たちに発見されずにはすんだわけだが、彼女はこんなところに逃げ込んだことを後悔することとなった。ブレーキをかけながらダストシュートを慎重に滑っているが、頭を何度もぶつけてしまい、そのたびに頭がクラクラしているようだ……。
数えきれないほど頭をぶつけた後、彼女はダストシュートのゴールに到達した。ゴールとは、当然だがゴミ捨て場である……。彼女は、木製の柵に囲まれた大きなゴミ置きスペースにいる。
「臭い!」
当たり前の反応を示すブリタニア。彼女は、鼻をつまみながら、すっかり変色している柵を越える。
幸いなことに、地下にあるゴミ捨て場に人気は無かった。薄暗く静かな地下空間であった。ゴミの匂いが無ければ、精神統一にはピッタリな場所である。
これ以上ゴミの匂いを嗅ぐのは嫌だとばかりに、ブリタニアは大急ぎで、地下のゴミ捨て場から地上へとつながる出入口を探す。食べ残しのゴミを目にしてしまう度に、彼女は吐きかけていた。
ようやく、薄暗いランタンで照らされた地上への階段を見つけると、彼女は猛ダッシュで階段を駆け上がり、階段の先にあったドアを勢いよく開けた。日光が、階段を明るく照らす。
ドアの向こうの地上は、要塞の荷物置場だった。ここで要塞と外との荷物の行き来を管理しているようだ。要塞内で使用される食材や消耗品が馬車の横に積み上げられている。大きな軍事拠点であるハーミーズ要塞だけに、大量の荷物が置いてある。
だが、その量に感嘆している暇など、ブリタニアには無く、荷物置場の作業員から身を隠さなければならなかった。作業員たちはせわしなく、荷物置場を移動しており、彼女はあっちこっちに移動しなければならない。これではいつまでたっても、荷物置場から出ることができないだろう……。