愛憎渦巻く世界にて
「あっ」
声を漏らした後、ブリタニアの脳内はめぐらましく動いた。脳細胞が過労死を起こしそうなほどだ。
「これ以外の方法があるものですか!」
約1分後、脳細胞が労基署に駆け込むのではないかというところで、彼女は最良の方法を思いつくことに成功したようだ。彼女は自信満々であった。
ブリタニアが叩いた壁の向こうにある隣の部屋は、シャルルたちが寝泊りしていた部屋だ。部屋の主はウィリアムで、他のシャルルたちには他の部屋を紹介されたのだが、彼らは今まで通り、共に寝ることにした。いっしょにいたほうが快適であることと、いざというときに、すぐに逃げ出させるようにするためである。当然だが、執事は反対した。家族でも婚姻関係でも無い男女が、寝食を共にすることなどありえないことだと言っていたが、ウィリアムの強引な要求を結局は飲んでくれた……。
シャルルたちは、いきなりの出発に備えて、こっそり手荷物をすべて持ち出していた。メイドに気づかれないよう、部屋の備品や不用品を、わざと部屋に置いたり散らかしておいていた。窓から差し込む日光が、それらを暖かく照らす。
ガシャンッ!!!
その窓が割れ、突き抜けた何か硬そうなものが、部屋の中を転がっていく。窓の割れて尖った部分には、絹の白いタオルがユラユラと引っかかっていた。
窓を割り、部屋の中を転がっていったのは石鹸だった……。石鹸は、タオルに振り回される形で窓に衝突したのだ。
「何ごと!?」
窓が割れる音を聞きつけたメイドたちが、慌てふためいた様子で部屋に入っていく。彼女たちは、割れた窓を見て、その場でただ驚いていた。
メイドたちがその部屋に入っていくとすぐに、ブリタニアが隣の部屋からこっそりと出てきた……。そして、左右を素早く確認し、赤い絨毯が敷かれた廊下を疾走する。絨毯のおかげで足音はほとんどしない。
言うまでもないことだが、石鹸で窓を割ったのはブリタニアだ……。ちょっとした騒ぎを起こして逃げ出すという古典的な方法だが、彼女にとっては自信満々な方法なのであった。事実、今のところ成功している。
さて、次の関門は、この要塞から脱出し、シャルルたちが向かった港に行くことだ。要塞は、外からの侵入に抵抗する軍事拠点であるので、迷宮のような複雑な構造となっている。まさか、通りがかりのメイドや兵士などに、出入口の場所を尋ねることなどできない。
ただ、彼女たちタカミ皇室は、このハーミーズ要塞によく訪れているし上に、好奇心旺盛な彼女はよく散歩していたので、おおまかな構造ぐらいは理解できていた。もちろん、秘密のではない出入口の場所もわかる。