愛憎渦巻く世界にて
第24章 ビンジョウ
ブリタニアは勘付いていた……。
彼女は、シャルルたちがこのハーミーズ要塞を出たがっているという話を、ハリアーや執事などよりも早く察知しており、自分もいっしょに連れていってもらうことにした。
彼女は、遠回しに頼むようなことはせずに、ちょうど船を探していたところのシャルルたちを呼び止め、自分も連れていくよう、命令口調でいきなり頼んだ……。
当然だが、その回答はノーだった……。そのときのあっけないやり取りの一部始終は、第23章でわざわざ取り上げる必要が無いぐらいであった。そのときの彼女とウィリアムの会話は、以下のような感じだ。
「お兄様! 私もいっしょに連れていってよ!」
「それは駄目だ」
「なんでよ!」
「危険だからだ。以上」
いとも簡単に断られた形だが、ブリタニアはあきらめずに、シャルルたちにつきまとって頼んだ。しかし、要塞に残っていた執事を呼び出され、彼に無理矢理連れていかれた。彼女は、執事に引きずられながら、見送るシャルルたちに精一杯の悪口をぶちまけたり、執事にシャルルたちのことを告げ口したが、執事は空返事を繰り返すだけであった……。
「絶対についていってやるわ!!!」
部屋の窓の外から、港に向かうシャルルたちを眺めながら、彼女はプンスカ怒っていた。あきらかな闘魂を感じられるほどだ。この機会を逃すのは馬鹿者だという考えが、彼女を突き動かしているようだ。
「さて、どうしようかしら?」
自室を歩き回りながら、シャルルたちについていく方法を考えるブリタニア。まず最初の関門は、この要塞から抜け出すことだ。
自室に今いるのはブリタニアだけだったが、ときどき気をきかせたつもりなのか、専属メイドが適当な理由をつけて部屋にやってくる。彼女のメイドは、あの教育係のババアほどうるさくはないが、キャリアウーマンであることには違いなかった。少なくとも、自分のお小遣いで買収など不可能だ。
「窓からは……無理……」
窓をさりげなく開け、窓の外の様子を伺ったブリタニア。その鋭い動きを持つ視線は、とてもお姫様の視線とは思えないほどだ……。
窓から抜け出すことなど、誰にでも思いつくことであり、既に見張りの兵士が配置済みであった……。もうシフトも決められているほどだろう。
「壁をつき破るわけにはいかないし、やっぱりドアからこっそり抜け出すしかないわね」
彼女はそう呟きながら、美しい模様の高級な壁紙が貼られた壁をコツコツと叩く。隣の部屋から、返答のコツコツが返ってくることはなかった。