愛憎渦巻く世界にて
出港するまで、今まで経験したことがないほど、時間の流れの遅さを感じた……。暗闇と静寂を保つため、時間が過ぎ去るのをただ待つしかない。その間の彼らの脳裏に、この船から要塞に連れ戻される光景が何度も浮かぶ。
もし連れ戻されたとしても、殺されるわけではないが、罪悪感で満ち溢れた日々を送ることになるのは間違いない……。しかも、そのつらい日々は、終戦で終わることは無く、死ぬまで続くことになるだろう……。余計な使命感など背負わなければよかったと思ったとしても、今さらどうしようもない……。
……どれほどの時間が過ぎたのかはわからないが、船はやっと出港したようだ。蒸気(そもそも、蒸気機関技術などまだ無いが)などの音がしたわけではないが、船の揺れが大きくなったので、出港したことがわかった。船の揺れが、彼らをゆらゆらと揺らす。
「やった」
シャルルは喜びの声をそっとあげた。他のメンバーも、心の中で喜びの声をあげる。そして、喜びと同時に、ビクトリーや船員たちに感謝する。
陸地から離れる時間を考え、少し待ってから隠し部屋から出ることにした。内側から勝手に開けていいとは言われなかったが、暗闇と窮屈さに到着まで耐えるのは、とても無理なことだ。
あと10分だけここに隠れていることにした。ただ、時計は無いので、ウィリアムが頭で時間を測った。その10分間も、先ほどぐらいではないものの、時間の流れを遅く感じた。早くここから出たいという気持ちが、どんどん上昇していく。
「10分!」
ウィリアムがそう言った瞬間、ドアの近くにいたゲルマニアが、入るときに通った跳ね上げ式の壁に体当たりした。
だが、あのおっさん船員は、錠をかけたらしく、壁は動かなかった……。ただ、きしむ音がするぐらいなので、たいした錠は使っていないようだ。
「全員でやるぞ! せーの!」
ゲルマニアのかけ声と同時に、シャルルたちは同時に、壁に体当たりした。
ガキンッ!!!
錠が弾け飛び、跳ね上げ式の壁が勢いよく上がる。そして、隠し部屋から飛び出てきたシャルルたちは、キッチンの床に仲良く全員で倒れこんだ……。
やれやれといった感じで顔をあげてみると、ポカンとした様子の少女が、目の前に立っていた……。