小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

愛憎渦巻く世界にて

INDEX|146ページ/284ページ|

次のページ前のページ
 

第23章 シメイカン



「いつになったら、この戦争は終わるんだよ!!」

 約1か月後、ハーミーズ要塞の貴賓室で行われていた朝食の最中、シャルルがいきなり叫んだ……。メアリーは新聞を手にしている。写真の技術はまだ無いため、字のみで埋め尽くされており、読み書きがほとんどできないシャルルには最初、その新聞記事の内容が理解できなかった。
 しかし、教養のあるメアリーが、いつも通りのはっきりとした口調で、その新聞記事を読んでくれた途端、シャルルは激怒せざるをえなかった……。

 その新聞記事には、
『ムチュー王国とゴーリ王国の戦争、泥沼化!』
『両国在住の邦人の安全確保が急務』
『入港および出港ができない貿易船への対応は?』
という緊迫さを伝える文章が踊っていた……。
 タカミ帝国の皇帝が終戦を求めるメッセージを両国に届けてから、1か月が過ぎたのだが、停戦協議が始める気配も無く、両国の戦争はそのまま続いていた……。その理由は、前の章を読めばわかることなのだが、疑心暗鬼やプライドを守るためであった……。
 シャルルたちは、皇帝たちに相談しようかと思ったが、すでに首都の皇城へと、皇妃や大臣たちを連れて帰ってしまっていた。ブリタニアは、駄々をこねて、要塞にまだ残っており、シャルルたちに旅の話をせがんでいた。皇帝に手紙を書いたが、返事の手紙は来ない……。
「自分たちでなんとかしてみろということだな」
ゲルマニアの言葉に、シャルルたちは、渋々そう納得するしかなかった。
「やっぱり、帰国して直接説得しかないのか……」
シャルルはそう言いつつも、マリアンヌの身の安全を案じていた。現時点でのこの戦争の大義がなんであれ、マリアンヌに危険が及ぶ可能性があることには違いないからだ。
 他のウィリアムたちも、無言でシャルルの言葉に頷いていたが、同じことを繰り返しているだけであり無意味だという心情になっていた……。皇帝にメッセージを出させることには成功したものの、あの両国の頑固な国王への説得は、もう経験済みで失敗したからだ。わざわざ危険をおかして戻り、もう一度挑戦して成功する見込みなど皆無だった……。
「いくらなんでも、いつか戦争は終わるだろうから、それまでここで待つわけにはいかないか……」
クルップが、無気力かつ無責任な言葉をつぶやいたが、それに対して誰も、何の反論も反応を返さなかった……。建前としては許されない言葉だったが、本音を言えば、そのほうがいいと思っているからなのであった。
 皇帝のメッセージから1か月のあいだ、シャルルたちは落ち着いた平和な日々を送れており、その日常を失うのが彼らは怖かったのだ。しかし、自分たちが大きく関わっているという罪悪感から、見て見ぬふりを決め込むわけにもいかなかった。
「そもそも、帰国するにしても足がないとな」
クルップは、帰る手段が無いのだからあきらめようという感じの口調で、さらにそう言った。最新型の船を沈めた上に、マリアンヌを殺すことをあきらめたため、クルップは心の底から帰国したくないと思っているようだ。その言葉の中に、とてつもない恐怖心がこもっていることがわかるほどだ。
 もちろん、恐怖心を抱いているのは、全員同じであった……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん