愛憎渦巻く世界にて
「この戦争はまだ終わらん!!!」
怒りで顔を真っ赤にしたままのゴーリ王国の国王が、はっきりと側近たちに告げた……。ゴーリ王国の国王がこのまま戦争を続行させる理由は、相手国の侵攻が怖いからではなく、振り上げた拳をどうしても振り下ろしたいからであった……。
側近たちも同様で、彼らは戸惑うことなく、
「その通りでございます!!! ムチュー王国の連中に思い知らせてやりましょう!!!」
そう気勢を上げて、戦争続行を支持した……。国王と側近たちは、一斉に拳を高く振り上げる。
「父上、おれに王室騎士団の指揮を任せてください!!!」
ゲルマニアの兄(一応、次期国王なんだとか)が、グッドタイミングだという感じで、国王に頼んだ。
「よし、許可するぞ!!! しっかり戦え!!!」
闘争心がマックスの国王は興奮のため、ゲルマニアの兄がバカであることを忘れてしまっているようだった……。
国王と兄と側近たちは、一斉に威勢よく声をあげ、王妃や侍女たちは拍手する。わかっていたことだが、その場には戦争主義者しかいないようだった……。
ただ、タカミ帝国から送られてきた「あの話は無かったことに」という無責任な書簡の存在は、その場ですぐに「特定秘密」に指定され、かん口令が敷かれることとなった……。戦意に悪影響を及ぼすという理由からだ。
「大使、戦争は続いているみたいですよ?」
ゴーリ王国首都のタカミ帝国大使館で、窓の外を見ていた公使(大使より1個下の階級)の男が、疲れ切った様子のイーデン大使に言った。2人はティータイム中で、窓からメインストリートも眺めることができる。
「だからなんだ? ここに攻め込もうとしているのか?」
「いいえ。いつも通り、バカみたいに意気揚々と戦場へ向かっていきます」
メインストリートを、ゴーリ王国の軍旗を掲げた兵士たちが行進している。少なくとも、戦争終結のお祝いパレードではないようだ。彼らが熱唱する軍歌が、部屋の窓を通過して聞こえてくる。
「ほっとけ、彼らの戦争だ」
イーデンはそう言い捨てると、紅茶を口にする。
「しかし、このままにしておいていいのでしょうか? 我々はついさっき、戦争終結要請の書簡を届けた身なのですよ?」
「では、メインストリートに早く行って、戦争は終わったと叫びまくればいい。次の瞬間、君の命がその場で終わるだろうが」
「まさか! 我々に手は出しませんよ!」
公使は苦笑いしながら言うが、イーデンの表情は真剣だ。
「彼らは、拳の振り下ろし先をムチュー王国に決めている。もし彼らの気が変わるとすれば、拳の振り下ろし先は我々タカミ帝国だ。我々の書簡の存在が公になったとしたら、なおさらの話だな」
「…………」
イーデンの話を理解した公使は、恐ろしげな表情になった。
「念のため聞くが、メインストリートで戦争終結を叫ぶつもりはもう無いだろうな? まだそのつもりなら、警備兵たちに籠城戦の準備をさせるのだが?」
「いいえ!!!」
公使は即答した……。そして、何事も無かったかのように、ティータイムを再開した……。メインストリートの喧騒がBGMのティータイムである……。