愛憎渦巻く世界にて
ウィリアムの言葉とシャルルたちの視線が伝えられた皇帝は、真顔で黙っていたが、陸軍大臣と海軍大臣は、あからさまに嫌そうな態度を取り始めた……。貴賓室は、険悪な空気で満たされる。
ただ、ブリタニアは、なんだかおもしろいことになりそうだと、これからの展開を無邪気に期待しているようだった……。
「お言葉ですが、殿下。武力介入が一番効率的な解決手段なのですよ」
後退した残りの髪を七三分けにしている陸軍大臣が、ウィリアムを諭したが、その言葉の中に「余計な口出しをするな」という気持ちがこもっていた。
「その通りです。早急に解決できるのならば、ムチュー王国とゴーリ王国の民も喜ぶことでしょう」
口周りに白髭を蓄えたハゲの海軍大臣も、そう諭したのだが、「次期皇帝は弱腰か?」という馬鹿にした表情さえも出していた。
「なんですか!? その口調と態度は!?」
この2人の大臣の、ウィリアムに対するあからさまな口調と態度に、彼の母親である皇妃が激怒した。皇妃としてだけでなく母親としてのプライドが許さなかったのだろう……。
「申し訳ございません!!!」
即座に陳謝する2人の大臣。本当に恐れおののいているらしく、必死の謝罪の言葉であることがわかる。皇帝がなだめ、皇妃はとりあえずそれを受け入れた。
貴族階級の出身である陸軍大臣と海軍大臣は、労働者階級の出身である皇妃を、普段はバカにしていたが、皇帝や彼の愛する妻である皇妃にそれを悟られないとしていた。皇妃を馬鹿にすることは、皇帝をバカにすることと変わらないからだ……。もし悟られてしまえば、貴族階級から労働者階級へと転落させられることだろう……。
ただ、ウィリアムやシャルルたちの平和的な解決をするべきという主張は、断固として受けいれられない様子であった。2人は外務大臣を押しのけ、皇帝の元へ駆け寄ると、
「皇帝陛下! あの非文明的な2国に平和的な解決を求めるなど、時間の無駄ですぞ!」
「ムチュー王国とゴーリ王国の野蛮人どもを正義の道へと導くためには、武力が一番です!」
などと喚き始めた……。その言葉には、自分たちの国よりも劣る存在であるムチュー王国とゴーリ王国に対する侮蔑の感情が込められていた……。
「導いてもらわなくても構わない!!!」
ゴーリ王国の王女であるゲルマニアが、我慢できずに叫んだ。しかし、2人の大臣は、逆切れを起こし、
「野蛮人は黙ってろ!!!」
「おまえらの国など、いつでも我々のものにできるのだぞ!!!」
言ってはならないことを口走った……。外務大臣は、ため息をつく。
戦争を終結させるということを名目として、ムチュー王国とゴーリ王国を支配下に置くということが、彼らの本音だということだ……。マリアンヌは顔を伏せたが、ゲルマニアは顔を震わせている……。
もちろん、彼らは思わず本音を漏らしてしまったことに対して、「しまった」という様子で、両国の王女であるゲルマニアとマリアンヌに対して、申し開きをしようとした。