愛憎渦巻く世界にて
皇帝は笑い終えると、近くにいた執事を手招きする。
「ベン、大臣たちを連れてこい」
「かしこまりました」
ベンと呼ばれた執事は、皇帝の命令を聞くと、部屋から出ていった。どうやら、皇帝は、どうせならのつもりで、この要塞まで大臣たちを連れてきていたらしい……。
タカミ帝国の大臣をここに連れてくるということは、会議をするということであり、さっそく戦争終結のために動いてくれるということなのだろう。シャルルたちは、心の中で大きく一安心していた。
{これで理不尽な戦争が終わる}
そのときのシャルルたちの心の中は、皆同じ期待であった。しかし、次の不安が浮かぶ。これも皆同じであった……。
{アナウンスという手段で、この戦争を終わらせてくれるのだろうか?}
ウィリアムは、「戦争を終わらせてくれ」と皇帝に願ったのだ……。シャルルたちの頭の中には、「平和的解決」という臭いことしか無く、皇帝の頭の中にそれが鎮座しているとは限らない……。
シャルルたちが不安な気分に陥る中、複数の堂々とした足音が聞こえてくる。執事に連れられた大臣たちが、貴賓室にやってくるのだ。
貴賓室に入ってきた3人の大臣たちを見た途端、シャルルたちは頭を抱えた……。彼らの不安は、的中してしまったのだ……。
外務大臣がいるという点はとても良かった。口先三寸で外交問題を解決してくれるからだ(もちろん、しくじることも多々あるが)。この老練そうな外務大臣はともかく、他の2人の大臣がまずかった……。
金色に悠然と輝く勲章をたっぷり胸に付けた陸軍大臣と海軍大臣が、やる気満々な様子でやってきたのだ……。「このときを待っていた」という強い思いがあることを、嫌というほど感じさせてくる。シャルルたちが考える平和的な解決手段に、手放しで賛成しくれることは無いだろう……。おまけに、いかにも老害といった雰囲気がある……。
その3人の大臣は、皇帝の近くに並んで立つ。彼らは、皇帝やウィリアムに恭しく挨拶したのだが、他のシャルルたちには一瞥しただけだった。それから3人は、急いで用意された席についた。
大臣たちは、後から来た部下に、それぞれ自分の持ち物を持ってこさせたわけなのだが、テーブルの上に置かれた持ち物を見たシャルルたちは、さらに頭を抱えることになった……。
外務大臣の持ち物は書類の束であり、これは別にどうでもよかった。しかし、全然どうでもよくなかったのは、陸軍大臣と海軍大臣の持ち物だ。
陸軍大臣はマスケット兵や騎兵の駒、海軍大臣は帆船の駒をいくつか持っており、後から来た士官服の男が机の上に置いた地図の上に、それらをトントンと置いていく。その地図は軍事用の作戦地図であり、さまざまな駒は兵隊たちの位置を示していた。地図の上の駒を動かしたりして、軍事作戦を検討していくわけである。
武力によって、ムチュー王国とゴーリ王国との戦争を終わらせるつもりであることぐらいは、マリアンヌやブリタニアでもわかることだ……。
「父上! 私たちは平和的な解決を望んでおります!」
陸軍大臣か海軍大臣が話し始まる前に、ウィリアムが皇帝にそう言った。他のシャルルたちは、無言で皇帝を見つめ、自分たちもそれを望んでいるということを視線で伝えた。