愛憎渦巻く世界にて
第21章 カイギ
タカミ帝国の皇帝は、派手ではない厳粛な服装をしており、強いリーダーであることを醸し出していた。シャルルはもちろん、ゲルマニアまでもが、その皇帝から醸し出される厳粛な雰囲気に飲み込まれているようで、その場でただ静かにしていた。
シャルルたちがいるその場とは、ハーミーズ要塞の貴賓室のことであり、そこで皇帝たちとともに、午前のティータイムを取っていた。
壁には美しい絵画がいくつも飾ってあり、天井には豪華なシャンデリアが厳かに吊ってある。その部屋全体が、宝飾品でできているような感じがするほどだ。そして、紅茶から放たれる心地よい匂いが、豪華絢爛な貴賓室を落ちついた空気にしている。
しかし、シャルルたちがいる貴賓室のうちの半分は、落ちついた空気ではなく、張り詰めた空気で満ちていた……。ちょうど部屋の半分の境目で、紅茶の心地よい匂いがシャットダウンされているかのようだ。
落ちついた空気のほうには、ウィリアムを含めたタカミ帝国の皇族たちがおり、シャルルたちとの旅の話を、ポジティブに楽しく話していた……。ただ、妹であるブリタニアは、嫉妬している感じであった。
それに対して、張り詰めている空気のほうには、他のシャルルたちがいた。もちろん、皇帝から放たれる厳粛な空気が原因だ。だが、シャルルたちは、いつ「提案」の話を持ち出すべきかのタイミングを、抜かりなくうかがっていた……。
その「提案」とは言うまでも無く、ムチュー王国とゴーリ王国との戦争を終わらせるために、皇帝にアナウンスをしてもらうということだ。内容が内容だけに、切り出すタイミングが重要だ。互いに顔を見合わせながら、絶好のタイミングを待つ。
「父上、ムチュー王国とゴーリ王国との戦争の話なのだが、戦争を終わらせてくれないだろうか?」
しかし、ウィリアムが、タイミングなどクソくらえだというレベルの突然さも持って、そうはっきりと切り出した……。しかも、「話の流れで言ってみた」という風な感じであった……。
当然だが、他のシャルルたちは、ウィリアムの提案の仕方に、呆れるしかなかったのだが、提案に対する皇帝の回答を聞くしかなかった……。もし、ひどい回答が速攻で返ってきたのならば、完全にウィリアムのせいである。
「よし、わかった」
時間や行間が空くこともなく、皇帝は即答した……。よくある物語ならば、静寂の時間が過ぎ去ってから回答が返ってくるものだが、皇帝の回答は、簡単な質問に答えるかのようなスピード回答であった……。
「え? あの?」
予想だにしないスピードで返ってきた、皇帝からの肯定の回答に、シャルルは返事に困っている様子であった……。ウィリアムを除く他のメンバーも戸惑っている様子を見せている。
「どうした? 断ってほしかったのか?」
戸惑うシャルルたちを見た皇帝が、笑いながら言う。その軽快な口調から、ウィリアムが皇帝である父親似であることがわかった。
「いいえ! これ以上ないほどうれしいです!」
シャルルがはっきりとそう言うと、シャルルの素直な言葉に、皇帝はだけでなく、両隣にいた皇妃やブリタニアまでもが笑った。