愛憎渦巻く世界にて
シャルルとマリアンヌは、甲板の船員たちの邪魔にならない場所で、とりとめのない会話をして、時間を過ごしていた。自国とゴーリ王国との戦争についての話題になると、シャルルはなんとか明るい話題に持っていき、マリアンヌが悲しい思いに陥らないようにしていた。
ゲルマニアとクルップは、この船に積んである最新式の大砲や、船員たちがトラアン島で兵士として使っていたマスケット銃を見て回っていた。ゲルマニアの目は輝いており、クルップは羨ましげに最新式の軍備を眺めていた。
ウィリアムとメアリーは、貴賓室でティータイムやチェスなどをして過ごしたり、ぶらぶらと散歩したりしていた。シャルルとマリアンヌとの会話に加わったり、ゲルマニアにちょっかい(おもにメアリー)を出したりした……。
シャルルたちが船旅を過ごし始めた頃、タカミ帝国の皇城に一通の手紙が届いた。言うまでもなく、その手紙とは、シャルルたちの船から伝書鳩が届けた手紙だ。
「陛下、ウィリアム様は御無事のようですぞ!!!」
これ以上無いほど嬉しそうな執事が、皇帝と皇妃がいる謁見室へと駆け込んできた。彼の手には手紙があり、両手で手紙を皇帝と皇妃のほうに広げてみせた。手紙を読んだ皇帝と皇妃は、ほっと一安心していた。
「やれやれ、一安心だな。しかし、迷惑をかけずに旅をしなければな」
皇帝は、ウィリアムが一騒ぎを起こしたことについて、ため息をついた。
「うんと叱らなければいけないわね。だけど、あなたは、ほどほどにお願いしますよ。あなたも若い頃、いろいろと騒ぎを起こしたではありませんか?」
皇妃が、微笑みながら皇帝にそう言うと、
「それを言うなよ」
彼は苦笑いしていた……。
「今さらながら、ウィリアム殿下は、若い頃の皇帝陛下とうり二つでございます」
昔のことを思い出している執事が、皇帝に追い討ちをかける……。
「……さて、せっかくだから、ウィリアムを迎えに行ってやろうではないか!」
返す言葉に困ったらしい皇帝は、ウィリアムの出迎えをしようと言い出した……。
「それがいいですわね。あの子でも、きっと驚くことでしょう」
ノリがいいらしい皇妃は快諾したが、執事は困った様子を見せていた。
「しかし、両陛下。スケジュールが」
「じい、さっそく出発の準備だ!」
執事がスケジュールのことを言い出した瞬間、皇帝は素早く命令を下した……。
皇帝を生まれたときから世話してきた執事は、皇帝が頑固であることぐらい承知していたので、皇帝を説き伏せようとはしなかった……。彼は、仕方なくといった様子で、謁見室にいたメイドたちに出発の支度をするよう言った。
「私もいっしょに行く!!!」
突然、ブリタニアが謁見室に飛びこんできた……。どうやら、ドアのところでずっと聞き耳を立てていたようだ……。その横にいた彼女専属のメイドは、申しわけなさそうにしていた。執事は、怒るのを通り越して呆れている……。
「いいだろう。久しぶりの家族団欒を過ごせるしな」
皇帝は笑いながら、ブリタニアの同行を許した。
「やったーーー!!!」
ブリタニアは、久しぶりの外出をとても喜んでいた。同行を申し出たのは、ウィリアムのためではなく、自分のためだろう……。
「こらっ、みっともない!」
皇妃は、はしゃぐブリタニアを叱ったが、ブリタニアは、しばらくそこではしゃいでいた。