愛憎渦巻く世界にて
「わかりました」
シャルルといっしょに行くという提案をマリアンヌは、すんなりと納得してくれた。シャルルが戦い慣れていないことは彼女も知っていたが、彼を信頼しているようだ。
一方、シャルルの心の中では、嬉しさと不安が渦巻く。自分がマリアンヌを守るという名誉からの嬉しさと、守りきれるだろうかという不安だ。もちろん、クルップを探しに行くと言い出したのは彼女なので、もしも彼女が蛮族に殺されたとしても、シャルルはそれほど責められない。しかし、自分が守りきれずに彼女が死んだとすれば、彼は生涯自分を責め続けることだろう……。
「それでは、マリアンヌ様、早く行きましょう」
そう言った彼は心の中で、
{マリアンヌ様はぼくといっしょに行くことを認めてくれた。ぼくを信頼してくれるんだ。もしも彼女が殺されれば、ぼくもその場で死のう}
そう強く自分に言い聞かせ、不安を脇へ押しやる。そして、これから探しにいくクルップの剣をしっかりと握った。
シャルルとマリアンヌが、蛮族の村のほうに向かっていき、ジャングルの中に消えていった。彼らは、蛮族に見つからないように、背を低くして進んでいった。
ウィリアムたちは、その場で1分ほど待ち、シャルルとマリアンヌの悲鳴が聞こえてきたり、逃げ帰ってこないかを確認した。
「今のところは大丈夫なようだな」
幸いなことに、何も起きなかった。
「さて、派手に引きつけてやらないとな」
ゲルマニアはそう呟くと、近くにある木の幹に、剣を思い切りぶつけた。当然、大きな音が鳴り、
「クツテリケワンチャン!!!」
蛮族が、ウィリアムたちに気づいた。運がいいことに、蛮族たちは一斉にウィリアムのほうに向かって行く。ウィリアムたちは、後ろ歩きをしながら、戦闘体勢を整える。
「やれやれ、私たちも死ぬかもしれませんよ?」
メアリーは短筒を構える。
「マリアンヌとシャルルのように、私たちも死なない程度に頑張ればいいだけだよ」
ウィリアムは軽い口調でそう言うと、弓矢を構えた。
「おまえたちは、私より先に進んでいっていいぞ?」
ゲルマニアはそう言うと、後ろ歩きのスピードを緩め、ウィリアムとメアリーの前の位置にきた。しかし、ウィリアムとメアリーもすぐにスピードを緩め、3人は横一列になった。
そのとき、蛮族の男が、前方の繁みの中から飛び出してきて、手斧を振り回しながら一直線にウィリアムたちのほうへ突撃していく。
するとすぐに、メアリーが放った弾丸が、その男を出迎えることとなった……。