愛憎渦巻く世界にて
そして、数本の矢が突き刺さった老婆はというと、そのままドアから地面へ落下していった……。落下の途中、ハシゴを昇っていた蛮族の男たちに衝突し、いっしょになって地面に激突する……。地面に落ちた老婆の死体や蛮族の男たちは、激しい骨折を起こしており、その蛮族の男たちは、変な角度に曲がった手足を他の蛮族に見せつけ、激痛を訴えた。
「チネイミレフテノワンチャン!!!」
蛮族は、これ以上無いほどのかけ声をあげると、次々にハシゴを昇り始める……。
「これは忙しくなるな」
ウィリアムはそうつぶやくと、矢を放ち、すぐに次の矢を構えた。ウィリアムが放った矢は、ハシゴを昇っていた蛮族の1人に命中し、右目を矢で貫かれたその男は、地面へと真っ逆さまに落ちていく。そして、地面に落ちるころには、死体になっていたわけだが、1つの目標の達成に夢中になっている蛮族には、1人の男の死など、どうでも良いようだ。言うまでもなく、蛮族が達成しようとしている今の目標とは、シャルルたちを殺すことであった……。
蛮族たちは、目標を早く達成しようと、次々にハシゴを昇ってくる。たいていの蛮族は、ハシゴを昇っている最中に、ウィリアムの矢やメアリーの銃弾にやられて終わりであった。そして、運が少し良い蛮族は、ドア付近まで昇ることができたわけであるが、待ち構えていたゲルマニアとクルップに斬殺される運命が、すぐに訪れた……。
このままでは埓が開かないということを理解できたらしい蛮族は、別のやり方をすぐに実行することにした。女たちが準備した火を使い、やぐらに放火をしてしまうというやり方だ。シャルルたちを殺すためなら、やぐらの焼失は惜しくないらしい。
「あいつら、火を放つ気だぞ!!!」
ゲルマニアは、松明を手にしている数人の男たちを見つけた。その男たちは、やぐらに向かって突っ走ってくる。
ウィリアムやメアリーは、そのうちの4人を殺し、4本の松明は地面で転がっている。しかし、最後の1人は、やぐらの足元までたどりついてしまい、迷うことなく、やぐらを支える丸太に火をつけた。
「火が放たれたぞ!!!」
ウィリアムは、火をつけて逃げていく男を射殺した。
パチパチという木が燃える音と灰色の煙が、燃え始めているやぐらの下から、シャルルたちの耳や鼻に届く。早く火を消さなければ、音と煙だけでなく、火もやってくる……。やぐらと小屋は木造建築なので、そう時間はかからないだろう。
ガシャーーン!!!
その音は、シャルルが大きなツボを割った音であり、そのツボからたくさんの水が床一面に広がった……。その大きなツボとは水がめであり、床に広がった水は、床のすき間を通り、下へと流れ落ちていく。
すると、ジューーーという心地よい鎮火の音が、下から聞こえてきた。流れ落ちた水が消火したようだ。丸太が湿ったため、さらに放火するのは時間がかかりそうだ。ウィリアムは矢を放ちながら、消火と予防措置をしたシャルルにニヤリとし、マリアンヌも嬉しそうだった。
「イツテゥナヮワンチャン!!!」
しかし、蛮族の怒りの炎を消すことはできなかったらしく、蛮族は次の行動に移すことに決めた……。太鼓の激しい音が、小屋の中にもしっかりと響き渡る。そして、すぐにその行動が何であるかを、シャルルたちは知ることができた。
蛮族たちは、一斉にやぐらを押し始めたのである……。やぐらを押し倒してしまおうというわけだが、これは簡単な方法ではなく危険な方法だといえる。なぜなら、ウィリアムやメアリーからは良い的であるし、倒れたやぐらの下敷になる恐れがあるからだ。それに、小屋の中には、老婆が大事そうにしていたツボがある。蛮族は、そのような高いリスクや損害を取ってまで、シャルルたちを殺したいらしい……。メンツのためだろうか?