愛憎渦巻く世界にて
ウィリアムは、マリアンヌのためにも、さらに言い返してやろうとしたが、
「口喧嘩なら、下でやってくれるか!?」
ゲルマニアが剣を抜き、床にドンと突き立てた……。床が一瞬揺れる。
ガシャーーン!!!
元々の置き方が悪かったせいで、祭事用具の1つらしい派手な模様が施されたツボが、大きめの木箱から落ち、床で音を立てて割れた……。粉々になったわけではないが、修復が不可能なほど割れてしまっていた……。
「キチヨェメツスヨワンチャン!!! ヌグメペロヨヘワンチャン!!!」
割れたツボは、この村にとって、とても重要な物だったらしく、老婆はこれ以上無いほど怒り狂っていた……。下にいる蛮族に、ツボを割ったことがわかれば、どれぐらい怒るのだろうか……?。『怒るのを通り越して呆れる』ということになってほしいものである。
ただ、ヨソモノであるシャルルたちには、ツボを割ったことなどどうでもよく、老婆をうるさがっていた……。少なくとも、シャルルたちにとって、そのツボは、『汚らしい土器』でしかなかったのだ……。クルップなんて、邪魔そうな様子で、割れたツボを足で壁際に押しやっていたぐらいだ……。
「うるさいぞ!!!」
クルップはそう怒鳴ると、別のツボを手に持ち、老婆がもたれている壁の近くに、そのツボを思い切りぶつけた……。当然だが、ツボは割れた……。それも粉々に……。
「チテァラノラワンチャン!!! キウョルレェワンチャン!!!」
老婆はそう叫ぶと、呪文のようなものを唱え始めた……。どうやら、呪いの呪文を唱えているようだ。自分たちの神に、シャルルたちに天罰を与えるよう願っているのだろう。
ただ、シャルルたちは、おもしろい見世物を見ているような感じで、老婆を見ていた……。意味がわからなかったということもあるが、彼らが信じている宗教からすれば、老婆や蛮族が信じている宗教なんて、どうでもよかったのだ……。
コンコンコンッ!!!
突然、部屋の中に響いたその音は、どうでもよいわけにはいかず、シャルルたちは驚いた。ドアをノックする音だということはわかったが、ノックしたのは蛮族に決まっているからだ。
ギギィという音とともに、竹製のドアがゆっくりと開く。シャルルはマリアンヌをかばい、ウィリアムたちは、武器を構える。
ドアのところにいたのは、若い男であった。どうやら、下にいる蛮族が送った使者らしい。ただ、騎士の処刑に関った若い男たちの1人であったため、ゲルマニアは睨んだ。
ウィリアムたちが武器を向ける中、その男は、老婆に話しかける。しかし、老婆の話を少し聞いた途端、男はシャルルたちを睨んだ。さらに、床に散らばっているツボの破片を見つけると、今にも飛びかかりそうなほど怒り出した。
そして、気を取り直した様子で、老婆に再び話しかける。
「スャカロホムウシワンチャン!!!」
すると、今度は老婆が怒りだした。だが、その怒りの矛先は、シャルルたちに対してではなく、男に対してであった……。
「テムソメフヘワンチャン!!! シユソミナワンチャン!!!」
男はそう言い返すと、小屋からさっさと出ていってしまった。ドアが閉まった後もしばらく、老婆はドアに向かって怒鳴っていた。
「テヲィュァワヤヤワンチャン!!! テヨツゥチアワンチャン!!!」
すると今度は、シャルルたちに向かって怒鳴り始めた……。切羽つまっている様子だった……。