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愛憎渦巻く世界にて

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「中は大丈夫だ!」

先に小屋に入り、小屋の中を確認したゲルマニアが、竹製のドアから顔を出して言った。
 ゲルマニアの次に小屋に入ったウィリアムは、ハシゴで昇ってきている老婆を見下ろすと、
「ほら、婆さん」
そう言って、老婆に手を差し出してやった。老婆は、少しだけほっとした様子で、ウィリアムの手を握った。
「よいしょ!!!」
「ウギャ〜〜〜!!!」
ウィリアムが老婆を思い切り引き上げた瞬間、老婆は人類共通の叫び声をあげた……。
 どうやら、ウィリアムが、勢いよく老婆の手を引っ張ったせいで、老婆の年老いた手首が脱臼してしまったらしい……。下にいる蛮族は怒りの声をあげたが、脱臼させたウィリアムやシャルルたちは「いっけね☆」という軽い調子だった……。
 全員がハシゴを昇り終わり、小屋の中に入ると、ゲルマニアがドアを閉めた。そのときに彼女が見た下の光景は、とても恐ろしいものだった。怒り狂っている蛮族は、シャルルたちがいるやぐらを徹底的に取り囲み、やぐらから離れたところまで地面が見えなかった。


 高いやぐらの上にある小屋の中には、いろいろな物があった。小屋の見張りが使う道具や祭事で使う用具が壁沿いに置かれており、ちょっとした倉庫になっていた。祭事用具は、普段使うことが無いことと湿気防止の観点から、この高い場所に保管されているのだろう。ドアや窓枠は竹製で、その他はすべて木製だったが、この村の住宅事情から考えればマシなほうであろう。運が良かった点は、見張り用の水と食糧があったということだ。1週間はここに立て籠もれるだろう。
 ただ、イスは無く、藁が敷いてあるところがあった。シャルルたちは、仕方なく、そこに腰を下ろす。シャルルとメアリーは平民のため、藁には慣れていたが、上流階級である他のメンバーには不評であった……。
 人質である老婆は、ドアから一番離れた壁にもたれかけさせておいた。老婆は痛そうに手首を押さえていたが、シャルルたちは誰も気にしていなかった……。
 それから、下にいる蛮族についてだが、やぐらをまだ取り囲んでいるものの、打つ手が無いという様子で、いくらかは静かになっていた。

「さて、これからどうする?」
藁が嫌なクルップは立ち上がると、ウィリアムに言った。クルップは小屋の中を歩き始め、壁沿いに置かれている祭事道具を眺め始めた。先ほどの老婆のような眺め方であった……。
「ひとまず、時間を稼ぐことはできた。我々やおまえの船の残骸や生き残りの船員が陸に流れつけば、捜索が始まるかもしれん」
ウィリアムが腕組みしながらそう言ったが、確証があるという喋り方では無かった。
「もしも始まらなかったら?」
この弱々しいセリフはマリアンヌだ。今にも、また泣きだしそうだ。
「一生ここで暮らすか、下の蛮族どもになぶり殺されるかだな」
ウィリアムが、はっきりと悲観論を述べた途端、マリアンヌはまた泣きだした……。
「他に方法は無いのか?」
クルップがやれやれといった口調で、ウィリアムに問いかけると、ウィリアムもやれやれといった口調で、
「君はゲルマニアの右腕だったんだろう? ゲルマニアを支えなければいけないのに、考え事は他人任せなのか?」
そう言い返してやった……。
 クルップは、挑発的なウィリアムのセリフにムッとなっていたが、すぐに返すセリフを思いつき、
「残念だが、今はゲルマニア様の右腕じゃない。アンタの右腕らしいその女が余計なことをしてくれたおかげで、マリアンヌが死に損なってしまった」
と、いかにも残念そうな口調で言い返した……。その女とは、メアリーのことだ。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん