愛憎渦巻く世界にて
ゲルマニアとクルップは、手荷物が無造作さに置かれている場所へ向かって、慎重に歩いていく。その置き場所は、蛮族に取り囲まれているようなところだった……。人質がいるので襲われることは無いものの、これ以上無いほどの殺気が2人を襲っていた……。もしここで人質が逃げ出したとすれば、すぐ八つざきにされることだろう……。
……幸い、何のトラブルも無く、すべての手荷物を取り戻すことができた。この島に流れついたらしく、クルップがなくした剣もそこにあった。彼の剣もゲルマニアと同じく、ロングソードであった。彼は、自分の剣が戻ったことを、心の中で喜んでいた。
そのころになると、蛮族の怒りのレベルはMAXになっていた。人質がいなかったらどうなるかなど、考えたくも無いほどだ……。
「ニゥンフムミワンチャン!!!」
「スカネスルワンチャン!!!」
老婆はメアリーに離せと喚き、蛮族は老婆を解放しろと喚いている。
「さて、これからどうしようか?」
そんな喚き声をBGMに、シャルルたちはこれからどうするかを話し始めた。周囲を取り囲む蛮族への警戒のため、背中合わせの状態での会話だ。
「そのババアを解放するなよ!」
クルップは、カンカンな蛮族のほうをアゴで示した。
「それは当然よ! でも、ずっとこのババアをこうして掴まえておくのは、体力的に無理があるわ」
片手で老婆を掴まえ、もう片方の手でナイフを老婆の首に当てているメアリーが、疲れてきている様子で言った。このまま疲労がたまれば、老婆が逃げ出してしまうかもしれない。
メアリーと交代すればいい話だが、周囲を蛮族に取り囲まれている状況なので、一瞬たりともスキをつくれない状況だ。
「海岸に戻ろう!」
これはシャルルの意見だったが、
「ダメだ。ジャングルの中は奴らの庭だから、危険だ」
ゲルマニアに即座に却下された。確かに、海岸に行くために、慣れないジャングルの中を通るのは危険だった。
「……あの、あそこならどうでしょうか?」
マリアンヌが指さした方向を、一同はチラリと見てみる。
マリアンヌが指さしたのは、村の真ん中に建つ高いやぐらであった。丸太で組まれたやぐらの一番上には小屋があり、その小屋からは村中を見渡せそうだ。枝と枝とを組み合わせた簡素なハシゴが、小屋のドアから地面まで伸びている。
反論も代案も無く、一同はとりあえず、やぐらの小屋に立て籠もることに決めた。
「スニツンツムワンチャン!!!」
メアリーは、騒ぐ老婆を無理やりハシゴで昇らせていた……。高齢のため、体力的にキツイようだが、シャルルたちは容赦無かった。老婆は、自分たちの御先祖でもないし、敵性の異民族なのだから、これぐらいの処置は当たり前のことで、マリアンヌですら同情していなかった……。
老婆を上下で挟みこむ形で、シャルルたちもハシゴを昇っている。そして、それを蛮族たちが下から見上げている。彼らは、シャルルたちが無理やり老婆を昇らせているのを見て、「血も涙も無い連中だ!!!」と、自分たちのことは棚に上げて怒っていた……。