愛憎渦巻く世界にて
「スシヨネヘウィース。フクヒムモテネワンチャン!!!」
蛮族の群集のその不満を受け取った老婆がそう叫ぶと、蛮族は先ほどと同じような歓声をあげた。シャルルたちの中から、今すぐもう1人を殺してしまおうということであった……。よほど、ヨソモノが嫌いらしい……。
さっそく、老婆は、先ほどと同じように、シャルルたちを上から眺め回し始めた。次に殺そうと決めているのは、思い切り泣き叫びそうな奴であるので、マリアンヌが採用されることは間違いなかった……。もちろん、ゲルマニアは不採用だ……。
マリアンヌを守りたいシャルルは、チラリとウィリアムとメアリーを見る。彼らの手は動いていなかった。間に合うだろうかと思いながら、視線を元に戻したとき、目の前に老婆が立っていた。マリアンヌの選考が終わり、老婆はもうマリアンヌを採用することにしているようだったが、一応他のメンバーも選考しておくことにしたようだ。
そこでシャルルは、「私は弱々しい男です」という演技をし始めた……。泣き真似までしたのだが、老婆は彼の演技を見破ったらしく、シャルルの次であるメアリーの前に移動していった。彼は舌打ちすると、マリアンヌを見た。彼女は、もう泣く元気も無いようで、ただうなだれていた……。
既にマリアンヌを採用することに決めている老婆は、無表情のメアリーを形式的に見た後、彼女から視線を外し、ウィリアムの目の前に移動しようとした。そのときであった……。
メアリーは、一瞬で、縄の残りを一気にナイフで切ると、老婆に飛びかかった……。それと同時に、ウィリアムも縄の残りを一気に切り、堂々とした様子で立ち上がる。
「ツスヨワンチャン〜〜〜!!!」
老婆が悲鳴をあげ、蛮族は怒りの声をあげる。しかし、蛮族が飛びかかってくることは無かった。
なぜなら、メアリーが彼らのリーダーである老婆を人質に取っていたからであった……。メアリーは老婆を掴まえ、ナイフを老婆の首に突きつけていた。
人質を取られると攻撃がしづらくなるというのは万国共通のことらしい。人質に構うことなく、攻撃される可能性もあったが、蛮族のリーダーが人質ならば手が出せないだろうという賭けが的中したようだった。
メアリーが老婆を人質に取り、蛮族が手が出せずにいる中、ウィリアムは、まだ縄で縛られたままのシャルルたちを解放し始めた。マリアンヌは、ほっとしていた。
「借りができてしまったな」
ゲルマニアが悔しそうにそう言うと、
「では、あそこに置いてある私たちの荷物を持ってきてくれないか? 手が疲れてしまってな」
ウィリアムが、矢じりを手荷物の山のほうに向けた。手荷物のすぐ近くには、蛮族がたくさんいた……。
「……わかったよ」
ゲルマニアは、やれやれといった口調で了承した。まさか、「蛮族の人質になるかもしれないから嫌だ」とは言えなかった。
「ぼくも手伝うよ。いくらなんでもゲルマニア1人で持つのは無理だろ?」
「わ…私も……」
シャルルとマリアンヌがそう言い出したが、ゲルマニアは苦笑しながら、
「お前らがいては逆に手遅れだ!」
そう断った。しかし、1人で全員分の手荷物をこちらに持ってくるのは大変であることぐらいは、ゲルマニアにはわかっていた。そこで、
「クルップ、ついてこい」
自然な口調で、自分の部下であるクルップに、手伝うよう命令した。
「……嫌ですよ。今は、ゲルマニア様の部下ではありませんので」
彼は、彼女の自然な命令には流されなかった……。しかし、ここで断れられるということは、彼女の想定内だったようで、
「そうか。それなら、おまえは私たちの仲間ではないということだな? あの蛮族どもに、このことを身ぶり手ぶりで教えてやろうかな?」
彼にそう脅しをかけてみた……。
「わかりましたよ!!! オレは、ゲルマニア様たちの仲間ですよ!!!」
彼女の脅しは、たちまちクルップを手伝わせることに成功した。