愛憎渦巻く世界にて
第17章 カゴ
ブリタニアは不満であった……。タカミ帝国の皇女である彼女は、誰が見ても不満そうな表情で、難しい内容の本を黙読しており、すぐ近くで立っている彼女専属の家庭教師をイライラさせていた……。一般的な教室ではなく豪華な私室であったが、態度が悪い教え子と更年期障害中の中年女教師がいる感じの光景であった……。
ブリタニアは、タカミ帝国首都の皇城の自分の部屋におり、大嫌いな勉強をしているところだった。窓の外は、雲一つ無い晴天で、遊び好き(もちろん、大人的な意味ではない。)の彼女を、輝く太陽が遊びに誘っていた。彼女は、本から目を離し、窓の外に広がる青空を眺めた。
「ブリタニア様! 御勉強を続けてくださいませ!」
ハイジのロッテンマイヤーみたいな女家庭教師(色気は皆無)が、上の空になっている彼女をさとした。しかし、彼女は、
「外で遊びたい!!!」
我慢の限界といった様子で叫んだ。
「いけません! 午前中は勉強となっております!」
勉強させることが仕事である女家庭教師は、当然だが遊びに行かせてはくれなかった。
「では、皇女として命令するわ! 遊びに行かせなさい!」
そこで彼女は、権力を利用することにした。子供ながら嫌な女である……。しかし、女家庭教師は平然とした様子だった。
「皇女様に御勉強をしていただくことは、皇帝陛下からの御命令によってのことです」
当たり前の話だが、皇女よりも皇帝のほうが偉いわけなので、彼女は悔しがるしかなかった……。
彼女は渋々、黙読を再開する。女家庭教師は、表情には出さないが、ほっとしている様子だった。
しかし、ブリタニアは心の中で、自分の兄であるウィリアムのことを思い出しているのであった。彼は今どこにいるのだろうかと考えている。
別にウィリアムの身を心配しているわけではなく、この皇城というカゴから抜け出して旅をしているということが、単純に羨ましいからであった。脱出して1週間ほど、彼女は自分も連れていって欲しかったとプンスカしていた。だが、それ以降は、羨ましく思い、自分もどうにかして脱出できないものかと考えるようになった。けれど、それは難しいとすぐに思うこととなった……。
なぜなら、ウィリアムの脱出成功のおかげで、警備体制の見直しが行なわれ、皇城の警備は厳重だった。ついこのあいだなど、皇城の廊下で、専属のメイドから10メートルほど離れただけで、警備兵に行く手を立ち塞がれたぐらいだ。
だが、ウィリアムのときも、警備は厳重だったわけだ。つまり、やろうと思えば自分でも可能だということだ。ウィリアム本人に助言を求めれば、脱出も容易だが、それは不可能なことだ。ブリタニア自身が考えてなければならないわけだが、ウィリアムほど頭が良くない彼女には難しい問題だった。
彼の専属メイドであるメアリーも羨ましかった。ただこちらは、「皇子であるウィリアムのおごりで遊べるなんてけしからん」という、こちらは女特有の嫉妬心からだった……。もしこの世界に女性誌があったのならば、姑のような意地悪な記事がトップで出ることだろう。『ウィリアム様の財布に手を突っ込む平民出身のメイド!!!』という感じだ……。そして、そのような下劣な記事を読んだ下劣な女性は、「けしからん!!!」という感じで怒り出す……。
彼女は、勉強そっちのけの上の空で、ウィリアムとメアリーの自由を羨ましく思い、自分の自由について思っている。
「ブリタニア様!!!」
ブリタニアが上の空であることに気づいた女家庭教師が、ヒステリックな大声をあげた……。ブリタニアは、部屋の外にいた見張りの兵士がビックリするほどの大声により、強制的に上の空ではなくなり、勉強を再開することとなった。
だが、彼女の集中力は弱く、すぐにまた上の空となった。すると、女家庭教師が大声をあげる。昼食の時間まで、それを何度も繰り返し、そのたびに見張りの兵士はビックリしていた……。