愛憎渦巻く世界にて
第2章 デアイ
シャルルは、ウィリアムとメアリーといっしょに道を歩いている。この道は、ムチュー王国の首都へと続いており、途中で大きな道に合流した。彼らのすぐ横を、兵士の死体を乗せたマリアンヌ王国軍の馬車が通り過ぎていった……。彼らは、その馬車を黙って見届けていたのだが、死体からの腐敗臭を強く感じた……。
「あんたの名前がウィリアムで、そっちの名前がメアリーだね?」
シャルルがウィリアムに言った。メアリーが一瞬、ビクッと反応したが、ウィリアムは微動だにしなかった。
「ああ、そうだ」
ウィリアムは前を向いたままそう言った。
「……黒髪だけど、タカミ帝国の人なのか?」
メアリーがまたビクッと反応した……。敏感な女である。しかし、ウィリアムは、その質問には慣れているという感じで、
「世界中を旅しているだけさ」
そう答えた。
「ふーん」
シャルルは納得した様子だった。
またすぐ横を、死体を乗せた馬車が通り過ぎていった。また腐敗臭がした……。
「君の母君の埋葬は済ませたのかい?」
今度はウィリアムが喋り出した。
「……母君? ああ、母の埋葬なら、村の人たちがまとめてやってくれるので……」
シャルルは一瞬、ウィリアムの「母上」という言葉に戸惑っていた。ウィリアムはシャルルが戸惑ったことに、「しまった」という顔つきを一瞬見せたが、シャルルは気づいていないようだ。
「墓参りはできないかもしれないぞ?」
ウィリアムは気を取り直した様子で、シャルルに忠告した。
「……そんなに危険な方法を使うのか?」
シャルルは、「え〜?」という顔をしていた。
「馬鹿ね。簡単に止められるような戦争をする国がどこにあるのよ?」
メアリーがあきれた口調で言う。シャルルはむっとした。
「少し危険な方法を使う」
ウィリアムが、睨み合うシャルルとメアリーをなだめながら言った。
「どんな方法ですか?」
「まあ、私も無理だとは思うけどね……」
ウィリアムが口を開こうとしたそのとき、すぐ横をマリアンヌ王国軍の兵士が数人、走って通り過ぎていった。『スカイリム』のリバーウッドに向かうホワイトラン衛兵のような感じだった……。どうやら、敗走しているようで、血まみれの状態だった……。
ウィリアムは、兵士たちが通り過ぎている間は口を閉じ、近くに自分たち以外誰もいないことを確認すると、口を開き、
「直接、両国の国王に頼み込むのだ」
彼は自信満々にそう言った……。シャルルが呆然としたのは言うまでもない……。
そのまま歩いていると、ムチュー王国の首都が前方に見えてきた。国王がいる王城は、日光に照らされて美しかった。