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中川 京人
中川 京人
novelistID. 32501
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ありもしない話に腹を立てている

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 とうとう、森の奥に住むくまさんが話を聞いてやってきました。
「その自転車でどこに行くつもりだったんだい?」
 くまさんが聞くと、子リスたちは声をそろえていいました。
「病気のおばあさんのおみまいに行くの。でも自転車がひとつしかないから、あとのふたりは行けないの」
「そりゃあ感心だ。リスのおばあさんの家なら、ぼくの家の近くだから送ってあげよう。みんなぼくの背中に乗りたまえ」
「わーい。うれしいな。くまさんありがとう」
 子リスたちはおおよろこび。狐のお兄さんもヤギのおばさんも目を細めています。
 ──さすがくまさん。頼りになるわね。


 ──はあ~。
 何かため息が聞こえます。
 ここに、おけらがいました。
 おけらは木の根もとの穴から頭を出して、いままでの話をふんふんと聞いていました。
 このおけらには、ありもしない話をでっち上げて、ひとりで腹を立てるくせもありました。
 自分のことを、世界の中心で真理を求めてなげくおけらかなとチラッと思ったりもしていました。
 おけらは腕組みをして考えました。

 どうしていつも大きいものが後から出てきて問題を解決するのか。
 どうしていつもみんなは大きいものの意見に従うのか。
 なんでくまさんはいつも森の奥に住んでいるのか。
 なんで「とうとう」くまさんが、なのか。
 なんで小さいものはいつも複数いるのか。
 なんで小さいものはいつもまぬけなのか。
 ──はあ~。
 おけらは、左右の手の平を両脇から上に突き出す例のポーズをとろうとしましたが、くまさんが動き出したので、いそいで穴に首を引っ込めました。


 くまさんはのっしのっしと森の小蹊を歩きます。
 気持ちのいい風が木々の間をぬって通り過ぎます。
 三匹の子リスは、くまさんの背中でおおはしゃぎ。楽しそうに歌を歌っています。
 いえ正しくは、はしゃいでいるのは二匹だけで、あとの一匹は何やら心配顔です。