あみのドミノ
13、別れさえ夢みる少女のように
以前の宿題の答えが出たという亜美乃からの電話で、私は久しぶりに会うことが出来た。亜美乃からの電話はお盆休みに田舎へ帰ってくるという話がでた時だけだった。私は淋しさと、どこかホッとした感じをどう消化していけばいいのだろうかと思えたが、真夏の季節が深く考えるのを止めさせ、怠惰に向かわせた。しかし、その夏もそろそろ終わろうとしている。
「この前の公園、こっちだっけ」
亜美乃が行きたいのは公園らしい。私は黙って公園に向かう。亜美乃もやはり黙って歩いている。そのせいか急に大人の女になった気がして、私はまた寂しい気がした。しかし、いくら鈍感な私でも先が読める。亜美乃は相手から別れを言い出されるのがいやで、もう駄目かもしれないと思うと自分から別れを言い出すのだろう。しかし、まだ何も考えまいとして、辺りを見回しながら歩いた。本屋が見えた。妻幸子と入ったことがあった。と幸子の顔を思い出す。ああ亜美乃と一緒に本屋に行くことはなかったなあ。本屋の脇を抜けると目の前に公園が見えた。街路灯に照らされた樹々の緑が白っぽくて、その奥は黒に見えた。この前色鮮やかに見えた樹々がまるでモノクロ写真のようだった。
「ふふ」亜美乃が思い出し笑いをする。一瞬私もあの日を思い出す。亜美乃が私の腕をとった。その手がひんやりとしていて、私は一瞬雪女が頭に浮かんで、あまりの唐突さに、私も「ふふ」と笑う。
亜美乃が私の顔を見上げて、「あら」と言った。私がそんな笑い方をしたのを亜美乃は見たことがないかもしれない。
「もしかしたら、同じ事を思い出したのかしら」
「いや、微妙にちがうかも知れない」
私はこれから起こるであろうことより、現在の頭の中の馬鹿馬鹿しさに、感傷的な気持ちが薄れていくのを感じた。(人生なんて馬鹿馬鹿しいことを真面目にやっているだけかもしれない)とも思った。