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あみのドミノ

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亜美乃からは何日も連絡もなく、結局それだけの仲だったかと諦めかけた頃、私は亜美乃から電話を貰った。まるで初恋のように心臓の鼓動は早くなった。それでもさり気なく応対して、亜美乃からの相談事を聞いてやるという願ってもない申し出を受けた。

五十年生きていると少しは感情を殺せるようになる。まるで初めてのデートのような気分を隠して、父のような雰囲気を漂わせながら、喫茶店で私は亜美乃と向かい合わせた。

亜美乃は最初こそ緊張した面持ちだったが、次第にくつろいできて、住み込みお手伝いさんを辞めて他の仕事をしたいということと、友達と一緒にアパートを借りてもう一緒に住んでいるということを話した。
「何だ、相談っていっても、殆ど決まったことじゃないの」と私はからかうように言った。
「あっ、あ、そうだね。へへへ」亜美乃が照れたように笑った。

亜美乃のすべてが好ましく思える。これは恋ではないかと私は思った。この笑顔で頼まれたら何でも聞いてあげたくなる。
「実は、お父さんに会いたかっただけ」

驚くべき率直さでそう言われて、私は丁度手にとったコップの水を少しこぼしてしまった。しかしこの率直さは自分を男として認めていないのではないかということもちらっと頭を重ねたが、「そうか、うれしいなあ」と言って笑って対応することにした。

「なんだか、ほっとするわあ。こうしていると」
亜美乃は屈託のない笑顔を見せる。私も何だか本当の父親になった気分もあり、恋のような気分もあり、複雑な思いだった。
「ところで、亜美乃はどんな仕事がしたいんだい」
私は父親のようにそう訊いた。
「うーん、絵が好きだから、デザイン関係とか……」

作品名:あみのドミノ 作家名:伊達梁川