あみのドミノ
「私って悪い女かしら?」
亜美乃は得意そうにでもなく、反省しているふうでもなく言ってコーヒーを口に運んだ。
私のTシャツとジーンズ姿に合わせたのか、亜美乃もTシャツとジーンズだった。一目見てあっ少年ぽいと思ったが、あきらかに化粧が濃くなっていて、女を感じさせるようになっていた。丁度今の梅雨時の植物のように亜美乃の中で変わって行くものがある。
「妻に今朝、釘をさされちゃった」
私は、ありのままをさらけだそうとしている。亜美乃が真剣そうな目で私の顔を見る。亜美乃が真剣になると怒ったような顔になる。最初は笑顔とのギャップに戸惑ったものだった。私は続けた。
「信じてるからねって」
「ああ」 と小さく口を開いて、それから口を結んで亜美乃が笑い顔とも泣き顔ともとれる表情になった。
「わかるよね。その格好で出てくれば。私は心のどこかでそれを望んでいて注文したのかもしれないね」
亜美乃は目を伏せると、テーブルの上のガムシロップの容器をいじり始めた。私は長い睫と憂いを含んだ表情にズキンとくる。私も心の中で「ああ」と叫ぶ。
「両方とも好きなんだ、というと、勝手なんだからと女性には言われるだろうな」
私は苦笑いをしながら言った。
「私こそ、勝手だわ。片方に足りないものをもう片方で間に合わせようとして」
亜美乃の顔が怒ったようになっている。私は慰める言葉を探そうとするが、頭の中は曇天だった。息苦しささえ感じてきて私は背筋を伸ばし、「父親役はできるよ」と努めて明るく言った。亜美乃が顔をあげて私を見た。
「そうね、最初はそうだった筈だよね」
亜美乃が笑った。私はホッとして冷めかけたコーヒーに手を伸ばす。